傷恋の蓮
□巫女と従者
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この想いに嘘はありません。
貴方だけを想い、貴方だけを追い続けます。
――…“お兄ちゃん”。
だから…。
彼を連れて行かないで。
『ー…亜津輝』
そう、呼ばれた時、ふっと、顔が浮かぶ。
何時しか、優しかった頃の、彼の顔だ。何処と、懐かしく感じるのは、まだ、僕が、巫女として付く前だったからだろうか。
それも、曖昧さを覚えるが、彼には、歳の離れた兄が居て、怪訝されていたのを思い出した。
しかし、その兄は、優しさと、柔らかさを、持ち合わせた不思議な感じの男性。
お互いの溝は、埋まった。
何時から?と、聞けば、自然にとしか言えない。
『夜風さんって、女だよね…』
『そう言われても、困るよ。亜津輝と、同じの付いているんだけどな』
『ふふふっ、知っていますよ。ただ、社と、並んだら、女と、間違われても可笑しくないなと、思っただけですよ…』
ほんの他愛ない話。
社の兄に、言った事があった。
ー…それは、また、突然に。
そいゆう君こそ…。
昔に、想い人に、向けて吐いただろう?
『ソナタは、細すぎる。ご飯を、ちゃんと食べて。体格的には…ムダな贅肉が無いくらいの身体になって欲しいのが、希望だ』
ー…ふふっ、そいゆう時もあった。
雪山に囲まれた里で、どうやって鍛えさせたのかが不思議。
ー…猪の肉に、里芋、人参、大根、牛蒡、ネギを、入れた里山特製の汁を飲ませてやった。
僕でも、猪の肉には、多くの栄養があるのは、知っている。
侍女達が…。
雪解け水で、野菜を洗っている姿を見た時、こんな、冷える時に、ご苦労なんて思った。
里山に、降りない煽桐にとっては、山から得られる野菜や山菜は、ご馳走だ。
雪の中に隠れているふきのとうを見つけた日には、その日は、天ぷら。