傷恋の蓮
□密かな想いを抱き
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何時間寝ていたのかは解らない。外を見れば、琥珀色の月が空に映えていた。
僕は隠れ家から急いで煽桐家に戻る。
もし、アイツにバレでもしたら一大事だからだ。
耳に入る音など気にせず…
木々の間を走り抜けていく。
こんなに遅くなったのは、久しぶり過ぎるぐらいに空輝沙の夢を見たから。
隠れ家に行くと何時も同じ夢を見る。
そして、夢を見た後は『後悔』と『懺悔』の文字しか頭に浮かばなくなるんだ。
自分の意志じゃなく…
勝手に涙が流れる時もあった。
特に、庭の一式に咲く菫と泉に咲く一輪の蓮を眺めていたら。無性に泣きたくなる。
「随分と、良いご身分だな…」
どすの効いた不機嫌な声音が耳に入る。
顔をあげれば、黒色の瞳が明らかに怒りを露にしている。