傷恋の蓮

□密かな想いを抱き
1ページ/5ページ

何時間寝ていたのかは解らない。外を見れば、琥珀色の月が空に映えていた。
僕は隠れ家から急いで煽桐家に戻る。

もし、アイツにバレでもしたら一大事だからだ。


耳に入る音など気にせず…

木々の間を走り抜けていく。


こんなに遅くなったのは、久しぶり過ぎるぐらいに空輝沙の夢を見たから。
隠れ家に行くと何時も同じ夢を見る。

そして、夢を見た後は『後悔』と『懺悔』の文字しか頭に浮かばなくなるんだ。

自分の意志じゃなく…
勝手に涙が流れる時もあった。

特に、庭の一式に咲く菫と泉に咲く一輪の蓮を眺めていたら。無性に泣きたくなる。


「随分と、良いご身分だな…」


どすの効いた不機嫌な声音が耳に入る。
顔をあげれば、黒色の瞳が明らかに怒りを露にしている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ