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□柳の枝に雪折れなし
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夏の日差しが目に刺さる。
普段地下室に篭もりきりの薬学教授セブルス・スネイプは思わず顔をしかめた。
中庭を横切って湖のほとりまで足早に進めば目的の人物は木に寄りかかって寝ていた。

つい昨日までホグワーツではそうそう見ることのない大人の姿で
そこら中を歩きまわっていたというのに今日は11歳の姿をとっている。

「……なぜこんなところで寝ているんだ。風邪ひくだろう。」

章良のもとまで歩いてきたセブルスはその姿をじっと見下ろした。

肩につかない程度で切りそろえられた髪が風になびく。

「なんで11歳に戻っているんだか。」

起きる様子を見せない章良にセブルスはしゃがみ込む。
いたずらっぽく輝く深緑の瞳は今はまぶたの奥に隠れている。


「…………」


さわさわと木々が鳴る音だけが響く。
セブルスはそっと手を伸ばす。












そしてあくまで無表情で章良晒されている額に向かって人差し指を弾いた。

「………だっ!?」

「起きたか。行くぞ、職員会議だ。」

涙目で額を抑える章良に満足したように鼻を鳴らしてセブルスは立ち上がる。

「もう少し普通に起こしてよ!」

ぱたぱたとついてくる章良にあわせて歩調をゆるめてセブルスはふん、と鼻を鳴らした。

「飽きた。」

「飽きたって!いつあたしがセブルスに飽きるほど起こしてもらったよ!?」

「ところで、今日はなんでまた11歳なんだ?」

「スルーか!…んー、なんか章都が今日から人前では戻れって。」

なんかあんのかな、と見上げてくる章良は小学生にしか見えない。

「ところでなんであたしも職員会議でなきゃいけないわけ?あたしは一応あくまで一生徒なんだけど。」

「散々運営に口出しておいて今更なにを。」

「そっか。」

「そうだ。」









職員室には各教科担当の教授の他に管理人のフィルチ、森番のハグリットなどホグワーツに関わる人物が全員揃っていた。
闇の魔術に対する防衛術の教授をのぞいて。

「ふむ、全員揃ったみたいじゃな。
今日は新学期に向けてやっておかねばならぬ事がある。
じゃがその前に新しい防衛術の先生を紹介しようかのう。」

ダンブルドアがそこまで言うと章都は何気なく章良を後ろに隠す形をとる。
その仕草に何事かとセブルスが怪訝な顔で章都を見た。

「…直に分かる。今年も大変な一年になりそうだぞ?」

苦虫を100匹もかみつぶしたような顔で呟く章都にセブルスはため息を一つこぼす。

「これまで大変じゃない年が一年でもあったか?」

諦めたようなセブルスのぼやきに章都は苦笑する。

「……ないな。」


そんな2人の小さな会話が聞こえていた教師陣はやれやれと首を振った。


「では紹介しよう。防衛術を担当してくださるギルデロイ・ロックハート教授じゃ。」

ダンブルドアの声に合わせて職員室の扉がバァン!と派手に開いた。
章良が顔をしかめる。

「この城もう随分古いんだから開け閉ては丁寧にしてよね。」

「お前突っ込みどころそこかよ。」

扉が傷む、とぼやいた章良に章都が突っ込む。

「いや、開けた本人はごめん。目が見ることを拒否った。」

章良の随分な言いように教授陣は素直にうらやましいと思ったとか、思わないとか。


「皆さんはじめまして!私こそ(自主規制)」

ロックハートの演説のような自己紹介が始まると教授陣はこめかみに青筋を浮かべはじめた。
そんな中あくまでも無表情を貫いていた章良が無感動に呟く。

「…あ、耳が拒否った。」

ほとんどの教授陣がずるい!と顔に書いてある。
それにあえて見ないふりをして章都は前を向いたまま呟く。

「お前ほんと便利な体してんよな。」

「そう言ってる章都だって聞こえてないでしょ?」

「おうよ。右から左へ受け流すどころか脳が音と認識していないな。」

淡々と小声で会話する2人にセブルスは
長いため息をこぼした。
そんな3人に気がついたのかロックハートが3人の方を向き章都の陰の章良に気がついた。
嫌な予感しかしない。

「おやおや、そこのお嬢さんは生徒ですかな?新学期が待ちきれずに私に会いに来てしまったのですか?
悪い子ですね。よろしい!おいでなさい。特別にハグして差し上げよう!」

ロックハートの的外れな台詞に一瞬凶悪な顔をした章良だが瞬時に猫を被る。
不安そうに眉を下げその目はうっすら潤んでいる。
そっと章都の後ろに隠れる。

すぐ隣でそれを見ていたセブルスをはじめ教授陣は驚きに目を見開た。

「恥ずかしいのでしょうね、よく分かります。尊敬するこの私がこうも近くにいるのですから!
さぁ、恥ずかしがらないで!」

上座にいたロックハートはカツカツと優雅に章良に歩み寄る。
その間にも章良の目にはこぼれ落ちんばかりの涙が溜まっている。

明らかに拒絶を湛えた章良の様子に気付かずロックハートは手を伸ばす。

「ロックハート先生、この子は…」

厳しい顔をした章都を華麗にスルーして章良の腕を掴んで引っ張り出した。



――その瞬間。




「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「章良!!」



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