企画

□アイシタイ!!
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愛が、足りない。


「…………は?」


六は引きつった顔で聞き返した。
その様子をとろんとした両目で映していた紫は、赤い口紅の端を上げて笑いかけた。
妖艶な笑みだ。
あまりに美しすぎて六はゾッとする。


「だから、六。足りないのよ、アンタからの愛が。アタシね、アンタの愛が欲しいの」


いきなり訳分からない注文を出され、六は混乱する。
紫はただの幼なじみだ。幼少時からの付き合いで彼女のことは誰よりも知っているつもりだったが、どうにも今の紫は六の知らない紫だった。

紫は紅潮した顔をカウンター越しの六に近づける。その手には空のお猪口が握られていた。
「アタシたち、ずっと一緒に生きてきたわよね? アタシのこと手に取るように分かるんじゃないの?」
「あー、いや、いくら相手がお前でも人の心の内までは分かんねぇっていうか」

「じゃあ、恋の相手がアタシだったら、どう?」

「……なッ!?」
六はカウンター席から落ちそうになる。
定休日であるはずの紫の(親の)店は、どうにも危険な香りが漂っていた。もう帰りたい。

「アタシ、自慢の彼女になれると思うんだけどな」
こんなこと口走る女だったかこいつ。
酒が入っているせいかもしれないが、成人してからというものの六は何度も、彼女と夜明けまで飲み明かしている。
だがこうも色気MAX誘惑MAXな紫は見たことがない。


「おいおい……紫、冗談だろ?」
「冗談でこんなこと言わないさ……。六、もう分かってるんでしょ?」

頭がぐるぐる回りそうだ。


「アタシはさ、アンタのこと好きで好きでたまんないの」


そこまで言って、紫の首がガクンと脱力した。
ピクリとも動かない。

「……紫? おい、」
今度は血の気が引いた。酒は強いと自負する六だが、今夜はやけに体調を狂わされている。
目の前の女に。

「紫! ちょっと、しっかりしろって! 紫!!」
六の叫びも虚しく、紫は俯いたまま、




小さな寝息を立てていた。




「…………あー……、マジ?」








『ねぇ、六はおっきくなったら何になるの?』
『んとなー、強くてカッコいい侍になるんだよ! そんで親父とかお袋とか、色んな人のことを守るんだ!』
『へぇ〜そっか。六は夢があっていいね。あたしは夢なんてないもの』
『じゃあさ、紫は、』

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