企画

□野良猫路男
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ミシェルは見た。

「ほれほれ、よしよーし」

六が野良猫と戯れている癒し…もとい衝撃的シーンを。



「……ぼ、ボンジュール…六さん…」
「…あ?うわっ、ミシェル!?」

夕暮れ時の川沿いの道端で、六は煮干を手にしながら驚き狼狽えた。
彼の背後にはいつの間にかミシェルがいて、口をぽかんと開けていたのだった。

「意外ですね、貴方が猫好きだったなんて…」
「わ、悪いかよ!ああっコラ、お座りしてろっつったろ!」

なんとこの人、野良猫にお座りを覚えさせようとしているらしい。
猫が言うことを聞かないのも無理はない。主人でもない人間に仕付けを教え込まれるなんてたまったものじゃないだろう。

見ればこの野良猫、随分な年寄りかもしれない。
灰色の毛並みは怒ってもいないのに逆立っており、異様に猫背だ。
しかも左瞼に大きな傷があり、左目は閉じられている。
長い野良人生の中で数々の修羅場を潜り抜けてきたのが分かる。目付きも悪いし。


野良猫は、六の手にあった煮干を強引に奪い取った。
「あっ!この野郎…!」

六も鬼ではないので、すぐに煮干から手を離した。
野良猫は満足そうに煮干を頬張っている。

「この猫、何処から来たんでしょうね」
「さあな。一週間ぐらい前からここにいるんだよ」
「で、六さんは一週間前から毎日ここに来ていると?」
「……ま、そういうことだな」

六は少し頬を赤らめて、髪をクシャクシャと掻いた。
野良猫と同じように逆立っていた髪が多少崩れた。

「この猫、何だか六さんに似てますね」
ミシェルは、煮干を食べ終えて優雅にけづくろいをする猫を見た。
「そうかぁ?」
「毛が立ってるところとか、目付きが鋭いところとか。これで毛並みが青かったらそっくりですよ」
「へー」

「あと可愛いところが」
「いつも思うんだけどよ、お前って死にたいのか?」


その日はミシェルが一発殴られ、解散。

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