企画

□スクールアフェアー
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ハジメが俺を許してくれるなんてこと、あるはずもなかった。だが当然だと言われれば当然のことなのだろう、と後になって思う。
あれは明らかに俺のせい、悪いのは俺であって、ハジメは被害者なんだ。


生徒たちが下校した教室の中で、俺とハジメはキスをした。あんなムードになってしまっては危険を顧みることも忘れていた。
仕掛けたのは、俺だ。

だが不運にも、それをウチの教頭に目撃された。
最悪だ。しかし既成事実なのだ、俺とハジメがゲイであることは。否定はしないが、肯定など出来る訳がない。

教頭には「外国では挨拶の一環です」と無駄な言い訳をしておいた。俺は英語教師だしアメリカの大学を出ていることもあっちは知っている。
教頭は訝しげな顔をしていた。多分、信じてもらえてない。信じたとしたらとんだクレイジーな野郎だ。分かってるさ。


ハジメが涙を流しながら逃げ出したのは、教頭が去ってすぐのことだ。
俺は馬鹿だ、と何度後悔したことだろう。早く帰って酒に潰れたかった。





次の日の朝、職員室に出向くと、同僚がにやにやしながら俺に話しかけてきた。

「お前とハジメちゃんがデキてるって噂になってんだけど」

ああやっぱりか、分かってはいたけど、やっぱり広まっていたか。あの教頭は結構口が軽い、ある意味一番見られたくない相手だったんだ。
昨日は出勤のことを考慮してあまり飲まなかったはずなのに、頭痛がした。

他の教師からの視線が突き刺さってくる。痛い。痛いに決まってんだろ、同性愛者なんだぜ?俺は。
生徒たちから大きな信頼を得ているやり手の英語教師、DTOがゲイだなんて、生徒たちの間で広まったらどうなることやら。想像したくもない。


いや、でも実際この学校は、というか俺の身近には案外そういう奴が多い。
例えば中等部のハヤトとか、幼馴染のロミ夫だってゲイだ。KKもそうかもしれない。
だがそれは俺の知っている間だけであって、他の連中からしてみれば滅多にいない存在だと思われているんだろう。
だから俺はこうして心地よくない視線を浴びているんだ。


教頭はまだ来ていないようだ。だがここで、職員室のドアが開く。
入ってきたのはハジメだった。

「……おはようございます」

いつもなら職員室全体まで響き渡る大声で挨拶するハジメも、予想通り、テンションが違かった。
ああそうさ、あれも俺のせいなんだ。

ハジメがちら、と俺を見た。
俺がハジメに「おはよーさん」と言おうと口を開いた瞬間、ハジメは俺から目を逸らした。

ショックがデカかったのは言うまでもない。


教師たちも俺たちの雰囲気がギクシャクしていることに気づいたんだろう、その後は誰も俺たちに対してツッコまなかった。その方が有難いが。
けど俺は、これから学校でハジメとどう接していけばいいのか、分からなかった。

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