企画

□アイシタイ!!
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『紫は、俺のお嫁さんになれよ!』





「おい起きろー、寝ぼすけ姉ちゃん」

睡魔は頭上からの低い声によってかき消された。ぺちぺちと頬を軽く叩かれている、ような気がする。
「ん〜……」と小さく唸って頭上を見上げると、今し方夢の中でとんでもない発言を口にした男がいた。


「……え、六!? アンタ、こっちに帰ってきてたの!?」
「おうよ。今さっき街に着いたばっかだけどな。それよりお前、何カウンターに突っ伏せて居眠りこいてんだ。今日は店も休みだろ」
「よく覚えてたね」
「昔から火曜は安みだろうが。俺はお前が思ってるより記憶力はいい方だぞ」

昔は覚えてなくて、火曜日は来る度に店のドアをドンドン叩いてたくせに。
そうよね、アタシも六も成長して大人になった。夢の中の六はまだ小さくて、声はあどけなくて可愛かったのに、今じゃ立派な男になったもんだよ。


一つ教えてやりたいことがあるけど、止してやるよ六。
アタシがこうして無人の店で番をしてたのは、いつ帰るか分からないアンタを待ってたからさ。アンタは曜日なんて関係なく店のドアから入ってくるから。


「今日は仕事ないのか」
「まあね。そういえばアンタの新曲、聴いたよ。相変わらずブッ飛んだの作るわよねぇ」
「お前に言われたくねーよー」
「ま、アタシは好きだけどさ」
そう言って立ち上がって、冷蔵庫の隣に並べて置いていた日本酒の瓶を持ち出した。六が旅から帰ってきたらまずは酒を飲む。お決まりのコースだよ。

「お、買っといてくれてたのか」と六が嬉々としてカウンター席に腰かける。アンタのためにね、とは言えなかった。

お猪口に注いで、六に手渡す。「サンキュー」と笑って、六はぐいっと一気に飲み干した。
小さいお猪口だからまだいいけど、何か部活終わりの運動部員がポカリを一気飲みするのに似ている。

「っは〜〜! 旅帰りの一杯はいいな!」

その豪快な笑顔、反則だよ。


アタシは自分のお猪口にも酒を注いで、一口飲んだ。六は美味そうに酒を飲んでいる。
アンタのその表情が好きで、ずっと見ていたくて、どうしようもないの。

ねぇ、アタシとアンタって、何だろう。何で繋がっているんだろう。ただの幼馴染? 友達? 恋人同士、それが一番理想的。
久しぶりに見るこいつに……アタシは何だか堪えられない気持ちになって、思わずいつも以上にお猪口を傾けた。


だから、だから酒に呑まれたの。

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