企画

□YOUR GIFT
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「…は?フロウが喜びそうなもの?」



墨を磨っていた六の手が止まり、丸くなった赤い瞳がデイヴに向けられる。
「そうだよ。今探してるところなんだ。
明日からサンタの仕事でイングランドに戻るから、今日のうちに何とかしたいんだよ」

デイヴは頬を赤らめてそっぽを向いた。六の意外だと言いたそうな視線から逃げるように。


「…お前にも春が来たのか」
「はぁ?今は冬だろーが」
「いやそういうことじゃなくてな…。まぁいいか、フロウの喜びそうなものねぇ…」



本来なら今頃デイヴを部屋から追い出して筆に魂を込めることだけに集中しているはずが、
こいつの突然のカミングアウト(本人にその自覚はないらしい)につい「出てけ」の一言も喉の奥に引っ込んでしまった。

無論書道のみに集中力を注ぐことが出来なくなったため、仕方なく六は墨を新聞紙の上に置く。


「いきなりうちに来て何事かと思えば、女子へのクリスマスプレゼントの相談か。
おかげで気が反れちまったじゃねぇか」
「オレの話を聞きながら書けばいいじゃん」

「お前書道をなめてんな。筆を動かしてる間は他人の声なんて煩わしいノイズでしかないんだよ。
そんな環境じゃ一点一画が疎かになっていい作品が書けねぇだろ」


イングランド生まれのデイヴには書道の面白さなんて欠片も理解出来ないが、
若干眉を寄せた六に言われると、悪いことをしたという自覚は持った。


「あー…悪かったよ止めて」
「いい。とにかく俺も、お前の話を聞き終わるまで気になって筆を持つことも出来ない」


両者共に胡坐をかいて向き合う。
畳って痛いなぁなどと戯言を考えながら、デイヴは口を開いた。





──実を言うと、デイヴは週に1度必ずフロウフロウの元へ出向いていたという。
(フロウフロウはMZDの家にマスターズと一緒に住んでいる。)

その時点で十分驚いたが。

で、もうすぐクリスマスだということで、デイヴはフロウフロウに何かプレゼントを渡したいと考えたのだ。


しかし女の子が好きそうなものなんて分からないし、何よりフロウフロウは普通の女の子とは違う。
彼女は投影機の中に生きる少女であり、『映像』と同じような存在なのだ。

食べ物、温度調節は不要。物体に触れることも無理だし嗅覚も発達していない。




「普通の女の子だったら、ケーキだかマフラーだか、アロマキャンドルなんかが喜ぶところだろうが…」
「フロウにゃ無理だろ、それらの類は」
デイヴは頭を抱える。何故自分は投影機の少女なんかに惚れてしまったのかと。


「そうなると、『見て楽しむもの』か『聞いて楽しむもの』だな」
「…テレビとか?」
「デイヴ、お前にそんだけの金があるんなら買ってやってもいいと思うぞ。第一喜ぶのかそれ」

考えれば考えるほど混乱してきて、デイヴは頭が痛くなってきたのか表情が暗くなっている。




「あ」

ぽん、と六が手を打った。


「! 何か思いついたのか!?」
デイヴの表情が一転し、希望に縋るように六に詰め寄った。


「近すぎるから離れろ!…これだ」
得意げに笑って、六が畳に置きっぱなしの半紙を指差す。



「お前がこれに『あいらびゅー』とでも書いてフロウに渡せば、プレゼントと告白の一石二鳥」


「何が一石二鳥だぁあああッ!!!」

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