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□suess
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「勝手に染めてよろしいですか?」
外見のイメージにぴったりな低いテノールの声が頭に響く。
「はい…勝手にして下さい」
こんな適当なオーダーでも引き受けてくれる。
上城さんは若いのに自分のお店を持てる程の実力を持つ美容師だ。従業員は上城さんを含めて4名。その中の1人は雑用みたいな感じでアルバイトしているらしい。店は部屋が3個あって、お客と一対一で居れるようになっている。
1ヶ月に3回は必ず来る僕はここの常連になっている。
ここに来るようになったのは1年程前。雑用係として働いている人が僕の友達で、そいつのお兄ちゃんが上城さんだったから開店したので一度来てみてと友達に言われたから渋々行ったのが始まりだった。
所謂一目惚れと言われるのを、恋と言われるのを初めてした。元々僕はゲイとかじゃ無かったと思う。どっちにもドキッとしたりとか無かったので解らなかったけど偏見とかは別になかった。
だって綺麗だったんだ。細長くて少しつり上がった目とか、銀縁の眼鏡とか、黒くて整った髪とか、身長も高いし手足も長い所とか、兎に角全てが輝いているみたいで、少し見とれていた位だったんだ。
「いっそのこと、私と一緒の黒にしますか?」
急に現実に戻された声を理解出来ない。僕は上城さんの黒も大好きだ。
「お任せします…」
でも、お揃いも良いかもしれない。
「畏まりました」
そう言って礼をする上城さんは何だか執事みたいでまた少し見とれた。
それから別に何を話すでも無くボーッとしていた。正しく言うのであれば仕事をテキパキとしている上城さんをずっと見ていた。
無言で鏡越しに目が合って…とか何も無いのに何だか凄く居心地が良くていつまでも居たいと思う程だった。
「出来ましたよ…お揃いの色です」
あ、同じ事思ってたんだ…。嬉しい。
「はい…お揃いです…」
緩む顔を必死に抑えてみたけど、声はいつもより弾んだ。