宝物

□「ぬいぐるみ」で孕みました。ワォ。
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僕がいつも見回るゲームセンター。
規模はそこそこで、その店先には何台かのUFOキャッチャーが並んでおり、客寄せのためか色とりどりの商品が投げ込まれている。

その中の一つ。

いつも通り見回りに来た僕が目をやると、首に紅いリボンを巻き、ふわふわとした蜂蜜色の毛をもつ大きくも小さくもないテディベアがこちらを向いている。
カラーバリエーションはあれど、同じぬいぐるみが詰め込まれている箱の中、それだけどこか浮いて見えた。
ゲームの獲得対象でないのか、プラスチック製の大きな機械の隅にちょこんと座っていたソレ。

――不意に目が合った気がした。

無機質の深い琥珀色の瞳に小さく僕が写っている。
きっと、僕の目にもテディベアが写っている。
見つめて、数瞬。

「委員長?」
「…、」

草壁の声に我にかえる。
行くよと小さく言い、巡回に戻った。今日は疲れているみたいだ。



『―――…ヒバリさん、』



話しかけられた気がした、なんて。






数日後、一人で再びゲームセンターの前を通った。
ぬいぐるみの大きさがそれほど小さくないせいか、はたまたぬいぐるみを取ろうとする人間がいないのか、挑戦している者を見たことはない。
それがいつもなのか、以前目が合った気がしたあのテディベアは、並び直されることも無く同じ場所に座っていた。

「……君も群れてるの。」

こぼれた独り言は誰の耳にも聞き届けられること無く消えていく

…はずだった。


『俺は、群れて見えますか?』


不意に響く言葉に、一瞬瞠目する雲雀。
店内にいくらか客はいるものの、雲雀が通りかかったことで店の奥の方へと引っこんでいったはずだ。
今、雲雀の辺りにはゲーム機から流れる電子音のみが流れている。
…けれど、聞こえた声。
いや、聞こえたというよりは、響くといった感じであった。
胸に、直接。

人じゃない、これは…

「――君?」

オカシイと思いつつも他に心当たりがない。
以前話しかけられた気がしたテディベアに小さくつぶやく。
相も変わらず、深い琥珀色をたたえてテディベアはこちらを向いていた。

声は、二度はしなかった。






雨の日。
見回り中に降り始めたソレを避けるように、ヒバリはあのゲームセンターの店先にやってきていた。
ちらりとUFOキャッチャーの中を覗く。
並びが変えられたのか、隅にあのテディベアはいない。

瞬間、俄かに焦る心。

同じものが多く入っているにもかかわらず、雲雀はあの一体を目で探した。
赤いリボン、蜂蜜色の毛、深い琥珀の…




――いた。


妙な確信を持って、雲雀はある一体を見つめた。
他のぬいぐるみの上に倒れるようにして置かれているソレの瞳は半分程度しか見えていない。

あとはもう、体が動いた。
手がポケットにあった小銭を探る。
店員を呼びつけても良かったのだが、そのときの雲雀は何も考えてはいなかった。
目の前のアレを手に入れる。それだけしか。

経験が無かったため1度では無理だったものの、2,3度やって落ちてきた、彼。
むんずと掴んで取り出し口から引っ張り出してやる。
途中、突っかかったのを無理やり出したせいか、首にあったリボンがはらり、落ちた。


『あっ。』


あの、声がした。


自然と口角が上がっていくのを感じながら、雲雀はリボンを拾い上げ、テディベアの前に掲げてやった。

「君が落としたのは、これ?」

分かりきったことを、どこぞのおとぎ話のように聞いてくる声に、返事が返されるまであと―――…
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