濁酒乾杯

□プレゼント中。
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 これって結局お持ち帰りされたってことか?
 
 と、小さな小さなぼやき声が聞こえて、近藤はきもちで笑う。
 ひたひたとひそめた足音が近づいてくる。この足の運びは沖田だ。
 すいと静かに引かれた障子の向こうに現われたのは、その通り沖田で、手には湯のみと大福の皿が乗った盆を手にしている。
「旦那、手間ァかけさせてすいやせんね」
「おう、やたらまわっちまったみてーで足元がやべー感じだったんでさ。しょーがなく」
 答えたのは万事屋の坂田銀時で、屋台で一緒に呑んでいて潰れた近藤を、肩を貸すというには半ば担いだ格好で屯所まで送り届けに来たのだ。
 門前の立ちん坊に引き渡して帰るつもりだったのに、何処へだかちょうど出掛けの原田に『茶でも出させるから寄って行け』と捕まった。
「あのハゲ、銀さんクソ重い荷物抱えて来て疲れてんだから、とっとと引き取れっての」
「ありゃりゃ、もしかして旦那がここまで運んでくださったんで」
 そーでーす。と投げやりに応える銀時。
 沖田が言う『ここ』とは、屯所の奥まった場所にある近藤の私室だ。
 原田の対応は局長相手だとは思えない投げやりなもので、茶の用意を隊士に指図すると、『万事屋、局長の部屋ァわかるよな。頼むわ!』と丸投げして出ていった。
「あのクソハゲ、定春のおやつにしてもいいよね?」
「まァまァ、ひとやすみしてってくださいよ」
 含み笑いの沖田が盆を勧める。
「勝手に出してしまいやすがね、こいつァ近藤さんが旦那にって買い置いてたモンでさァ」
 なんでも松平と政府の役人に会った時、茶屋で出されたものに目をつけて近藤が買い求めて来たらしい。
 近藤がどこぞの老舗のなんかご用達だとか言っていたと、なんとも沖田らしいおおざっぱな説明にさすがのご用達大福も泣こうというものだ。
「旦那がいつ来るかなんてわかりゃしないってのに、まァ甲斐甲斐しいもんでさ」
 銀時が屯所に来なかったとしても、近藤が万事屋に赴いただろうけれど、そういう言い方をされるとむずがゆい。
「……いただきます」
 触らぬ神に祟りなし。薮を突けば蛇が出る。
 楽しそうな沖田に要らぬリアクションはせぬ方がいいだろうと、虎穴に入る気は毛頭ない、君子危うきに近寄らずを実践する銀時。
 そんな様子もが沖田を楽しませているのだが、照れと緊張と警戒に襲われている銀時は気づかない。
「うめーですかィ?」
 大福でいっぱいになった口をもくもくさせている銀時は首だけでぶんぶん頷く。
 さすが『どこぞの老舗のなんかご用達』。
 どこの老舗のなんのご用達だかさっぱりだが、しっとりした餅もなめらかで上品な甘さの餡もさすが『どこぞの老舗のなんかご用達』だ。
 ふくふくとしあわせそうに頬張る銀時に「そいつァ良かった」と沖田もつられて嬉しそうに微笑う。
「近藤さん、いねーと思ったら旦那と呑んでたんですねィ。……熟睡してやすね」
 ずず、と茶を啜った銀時も、大人しく寝ている近藤の顔に目を落とす。
「あー寝不足のとこに酒かっくらったから回ったんじゃね」
「ここんとこ夜は眠れないって言ってたんですがねェ」

 
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