古酒震天

□説教
1ページ/1ページ



「隊長……ちょっとは楽にしていたらどうですか」
 呆れた声に言われるも、そういうわけにはいかない事情がある。
 パイロットアラートに端末を持ち込んだアスランは、生返事を返しながらバシバシとキーボードを叩く。
 その左右には二枚のデータボード。繋いだ三台の端末のデータを行ったり来たりしながら、アスランは先日あった戦闘の解析を行なっている。
 新人と新型で連合の猛攻に対処しなければいけないMS隊の隊長は、激戦続きの彼らの状況をほんの少しでも改善してやりたくて、ハードからでもOSなどのソフトからでも、今このミネルバでの可能な対策はないかと考えを巡らせているのだ。
 未だ艦内配備はイエローアラートのままで、アラートにはパイロットスーツを着込んだMSパイロットがふたり。
 ひとりはソファにだらりと腰を落ち着けて眉をしかめ、ひとりは端末に向かって真剣な顔でダカダカとキーを叩いている。
「隊長」
「うん」
「たーいちょー」
「うん」
「アスランさん」
「うん」
「アンタねー」
「うん」
「……そういう作業って神経を緊張させるから」
「うん」
「……聞いてねえし」
「うん」
「…………」
 メキ、と見えないどこかにヒビが入る。某赤目の少年の忍耐とかそういうところに。
「隊長、しッつれーしますでありますよっ」
「え? ええ? えっ、えっ!」
 ダン!と荒々しく立ち上がったシンは、足早にアスランの傍らにダシダシと足音高く立つ。そしてアスランが向かっている端末のキーボードへと無遠慮に手を伸ばす。
「ちょ、シンっ!?」
「はいはいはいっ」
 慌てるアスランにかまうこと無く、シンはセーブを選択し、エンターキーをバカンと叩き、次いでとっととファイルを閉じて終了させてしまう。
「おい、おまえっ」
 さすがに苛立ちを隠さずに傍らを振り仰いだアスランが、ぴたりと止まる。
 振り仰ぎ見上げた先で、あの仏頂面が常のシン・アスカが全開で微笑んでいた。その目はまったく笑っていないが。
 えっと、とアスランは、なにかシンに、俺シンになにかやったっけ?と記憶を探るも作業に没頭していたので、すべてが朧げだ。
 たぶん話しかけられて、たぶん返事はしたが、なにを話しかけられたか、なんと返事をしたのか思い出せない。
 思い出せないことで、ああとシンの苛立ちのわけに気づく。
「あーっと、すまない……なんだろう?」
「て、アンタねえっ!」
 気づいたからといって、どうしようもないアスランが上目遣いで窺うと、パカっと口を開けたシンは刹那口の中を見せた後、隊長に喚き立てた。
 忙しいのもわかるけど、ちったあ体休めましょうよ、パイロットは体が資本なんですから(以下略)と、士官学校を出たての新人に、ザフトの伝説のエースはこんこんと説教をされた。


end.
 
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ