濁酒乾杯

□だましだましやってても。
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 志村家の日当たりの良い縁側に腰掛ける銀時は、三十路目前の男に向けるには可愛らしい「銀ちゃん!」という呼びかけに半身を捩じり、肩越し振り返る。
 ん、と喉声を返し、ひょいと上げた手のひらに飛来してきた物を受け取る。
「わちっ! 神楽ァ、もちっと絞れよビショビショじゃねーか」
 言えば「だって」と反駁。
「だって……姉御が、ソレっくらいなら『きっとステキな夢を見られるわよ』て言ったアル」
 したしたと雫を滴らせている手ぬぐいに銀時と神楽の視線が向く。
「……夢、……否、コレ夢見る前に……だろ」
 こういったことには鈍い神楽の声に怯えを滲ませるとは、いったい妙はいかな殺気を揺らしていたのだか。
 溜め息を漏らした銀時は、隣で大きな体を横たえて伸びている男の顔にベショと手ぬぐいを被せた。
 ひょこひょこと寄ってきた神楽が「これだけでステキな夢が見られるアルか?」と興味津々な顔をするので、「この方法はコイツ限定だから銀さんにはすんなよ」と先に釘を刺す。
「姉御、意外アルな」
「なんでよ」
「ゴリラにステキな夢をプレゼントしてやるなんて、乙女の心はウラハラってことでしょ」
「……未必の故意って知ってっか?」
「密室の恋?」
 どこがだ。密室どころか、常に公開処刑だ。

 
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