novel
□抗えない想い
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震える声で小さく貴方に呟いた。
そしたら貴方はいつものように笑って答えた。
『気にしてないよ』、と。
だから僕は笑って『分かった』と返事を返した。
心の中ではボロボロと大粒の涙を流しながら。
自分があんな事をするだなんて思ってもいなかった。
僕が貴方を抱いてしまうなんてこと、夢にも思っていなかったのに。
偶然だったんだ。
あの日の夜、遅くまで小説を読んでいた僕は喉が乾き、リビングまで水を飲みに行こうとした時だった。
ガチャリとドアノブを回して廊下へと出ると薄暗い景色が広がった。
なるべく物音を立てないようにと静かに足を運んでいたその時
ふと前を向けば暗闇の中に射し込むひとつの光が目に入った。
いつもはしっかりと固く閉ざされている扉が少しだけ開いている。
廊下にはその隙間から微かに灯りが漏れ、その光に導かれるように僕は足を進めた。
立ち止まった先は、ジュンスヒョンの部屋。
(…きっともう寝てるんだろうな)
そのドアを閉めて部屋を横切ろうとした瞬間
僕の耳には信じがたい声が聞こえた。
それはいつものアハハと笑うジュンスヒョンの声ではなく、消え入りそうな小さい小さい声。
今までに僕が聞いたことのない、初めての声。
どうしよう、と頭の中で必死に考えをまとめるがなかなか頭が働かない。そんな自分が情けなかった。
取り敢えずリビングへと足早に移動し、テーブルに手をつき深く呼吸をする。
耳に残る先程の声が、僕の頭の中を一瞬にして支配してしまった。
先程まで読んでいた小説の内容なんてもう忘れてしまうほどに、衝撃的なものだった。
『…んっ…ヒョン、…あっ…』
『…静かに、ジュンス…』
覗き見する勇気なんて僕には無かった。
いつもは強がっている僕でも、こんな場面に遭遇しては流石に驚きは隠せない。
二人の姿を直接見た訳ではないが、それは見なくとも明らかな行為だった。