BOOK(企画)
□夢現
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その夜、ボクはなかなか寝付けなかった。
普通に学校に行って、清継くんの妖怪研究を手伝って、部活でサッカーをして。
何も変わらない1日だったのに。
とにかく、寝れないと思うとかえって目が冴えてきて、ボクはランニングに出掛けることにした。
夜だし、もし妖怪が出たら…。
…いやいや、考えないようにしよう、うん。
「ほっほっ、ほっほっ」
とりあえず家の周辺を一回り。
それから公園――と言っても森の中に壊れたブランコや腐ったベンチがあるだけで、薄気味悪い――の前を通る。
その時。
――ドスッ…
「……ない……で………しょ」
「…と………い」
何かがぶつかるような音と、女の人…と言うより女の子の声と、男の声。
「こんな時間に…?」
怖いけど気になる。
木に隠れてそっと覗いてみる。
二人いる。
さっきの声はあの人達?
でも、なんか見覚えのあるシルエット。
「んん〜?」
目を凝らして見る。
すると、月の光で男の顔が見えた。
前に及川さんと一緒にいて、清継くんが及川さんの彼氏だと(ボクは認めないけど)言ってたヤツだ!
「あぁー!」
ボクの声に女の子が振り返る。
そしたら、もっと見覚えがあった。
「げっ、島くん…」
「及川さん!」
「あ?なんだアイツは」
こんな時間にこんな場所で及川さんに会えるなんて!
ボクは思わず駆けよって、はたと気付く。
彼は普通の服じゃなくて、時代劇で見るような侍みたいな格好をしていた。
そして及川さんも着物だ。
月の光の反射のせいか、及川さんの瞳が金色に輝いて見えた。
それにしても…。
「はぅぁ〜…」
白い着物が似合うなぁ。
及川さんはなんでも似合うけど、着物姿もまた…。
ん、待てよ?
白い着物……白無垢……。
ま、まさか及川さん!?
わざわざ夜に二人で会って、将来の約束を交わしていた!?
これが俗に言う駆け落ち!?
「う、嘘だ…こんなの夢だぁ〜っ!」
「そう!夢よ!!」
「えっ」
なんと及川さんの顔が目の前にあった。
え、えぇーっ!
「島くん!これは夢!夢だからっ!」
「夢…?そっか、そうだね」
「そうよ!!」
手をぎゅっと握られる。
ひんやりするけど、嬉しい…!
「私達が妖怪を追ってここに来たとか!何か変な音がしたとか!それがあのガサツ男が乱暴に妖怪を倒したせいとか!全部島くんの夢なのよ!!」
「おいコラ」
「そっか。夢かぁ。ははは…」
それからボクは急に寒くなって、眠くなって…。
気が付いたら、公園の中で倒れていた。
及川さんも彼もいない。
本当に夢だったような、そんな気がした。
《後書き→》