BOOK(企画)
□氷雪華
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捩眼山の冬は厳しく、また雪も深い。
当然ながら朝はかなり冷え込む。
「さみ…」
牛鬼組の新たな頭領となった牛頭丸は、襟元をかき合わせ、閨から廊下へ足を踏み出した。
板張りの廊下の冷たさが足の裏から伝わり、牛頭丸は身を震わせる。
しかし、どんなに寒くとも…いや、寒いからこそ元気な者が一人、つい最近この牛鬼組に増えたのだ。
「やあっと起きたの?」
この台詞を聞くと眉根に皺がよるのはもはや条件反射。
「やっとじゃねぇ。お前が早すぎんだって言ってんだろ、雪んこ」
その増えた者と言うのが、牛頭丸と祝言を挙げたつららだった。
「だって、せっかく雪がきれいに積もったのに、いつまでも寝てたらもったいないじゃない」
至極楽しそうなつららは、その腕に溢れるくらいの花を抱えていた。
大ぶりではないが鮮やかな黄色で、愛らしい姿も彼女の雰囲気によく似合っている。
「そんなもの、どこから取って来たんだ」
「この屋敷の裏からよ。雪の中に咲いていたの。可愛いじゃない?」
「ふぅん」
牛頭丸は一輪を手に取って眺めてみる。
「妙な咲き方をした花だな」
花の多くは一本の茎から一つの花を咲かせるものだが、これは茎が枝のように分かれていて、そこに縦に連なって花がついていた。
花びらの形も特徴的で、まるで沢山の蝶が集まって来たかのように見える。
「で、そんなに摘んでどうすんだ。食うのか?」
「そんなワケないでしょ。お部屋に飾ろうかと思うの」
「ハッ。馬鹿馬鹿しい。ここは武闘派の牛鬼組だぜ?花なんて必要ない――って…」
既につららは牛頭丸の前にいなかった。
うきうきと廊下を軽やかに進みながら、飾る気満々なのか、近くにいる妖怪たちに花瓶の手配を頼んでいる。
一人残された牛頭丸は、花を持ったまま佇んでいた。
「これ…どうすんだよ」
それに鼻を近付けてみる。
かすかに良い匂いがした。
甘いけれども強すぎず、心惹かれるが媚びるでもなく。
「雪の中に咲く花、ね…」
牛頭丸の表情は穏やかで。
“可憐”――まさにその言葉が相応しい花だった。
《後書き→》