BOOK(企画)
□玉響〜たまゆら〜
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吐息が触れ合う程の近い距離に、思わず身がこわばる。
「なぁ…いいだろ…?」
牛頭丸の甘い囁きは、つららの心を揺さぶる。
「…だめ……」
零した拒絶の言葉は、つらら自身が思うより弱々しいものだ。
奴良組屋敷の中でも滅多に使わぬ部屋。
そこに、つららは牛頭丸と二人きり。
牛頭丸はさらに詰め寄った。
「たかが口付けくらい、減るもんじゃねぇだろ」
「減るわ…。私の何かが…」
なんだソレ、と牛頭丸は薄く笑ったが、つららはちっとも笑えなかった。
心臓が暴れて仕方ないのだ。
「…誰かに…見られたら…」
「誰も気付きやしねぇよ」
耳に息がかかる。
つららがついと顔を逸らすと、顎を掬いとられた。
「なぁ、雪んこ…」
牛頭丸の長い前髪から覗く瞳は、ひどく熱っぽくて、扇情的で。
まごうことなき"男"の顔だった。
「…ご、ず…ま…る…」
悪戯に弧を描く口元にそそられる。
唇を濡らす舌がむかつくくらいに艶めかしい。
こんな男に…と、つららは思った。
だけど。
結局ほだされてしまうのだ、とも思った。
「ゆだねろよ…」
操られたように瞼を下ろす。
それは玉の響きにも似た…甘く淡い感覚だった。
《後書き→》