BOOK(企画)

□想いは果実に添えて
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節分を過ぎた如月某日。

奴良組の調理場では、来る十四日のバレンタインデーに備えて、特訓を兼ねた試作が行われていた。

その中心となっていたのは若菜だ。

「やだ、小麦粉が足りないわ。雪女ちゃん、悪いけど取ってきてくれるかしら」

「はいっ!」

若菜の申し出につららは快活に返事をして、調理場を出た。

母屋の中の食糧庫は、調理場から近い場所にある。

さほど広くはないが、大所帯の奴良組を賄うために、あらゆる食材がぎっしりと詰められていた。

「小麦粉は、と…」

求めるものは、並んだ棚の上部にあった。

試しに手を伸ばしてみるが…。

「と、届かない…」

踏み台も見当たらない。

なので、つららは自前の氷で作った踏み台に登った。

「よ、いしょ…」

小麦粉の袋を一つ、二つ。

三つ目を取ろうとした時だ。

つるり、と足元が滑った。

「へっ?」

氷なのだから当然と言えば当然。

体が宙に浮く。

つららは後悔した。

――氷で作らなきゃよかったぁ〜…

瞬間、つららは温かく大きな腕に包まれていた。

「あれ…?」

この感覚は知らない。

おずおずと上を見ると…そこに不機嫌そうな顔があった。

「ごっ、牛頭丸!?なんでっ!?」

牛頭丸は眉間にシワを寄せる。

小麦粉の袋は、彼の背中から生えた爪(狭いからか一本だけだが)に器用に乗っていた。

「様子を見て来いって言われたんだよ」

「誰によ?」

つららは体勢を直す。

「調理場にいた人間。リクオの母親だったか?」

「若菜様?」

「あぁ、確かそんな名前だったっけな」

牛頭丸は爪から小麦粉を下ろして、つららに押しつけた。

「こんなに大量の小麦粉、どうすんだよ」

「お菓子作るのよ。みんなに配るから大仕事で」

つららは牛頭丸を食糧庫から追い出し、自分もあとに続いた。


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