BOOK(企画)
□玉雫
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如月も半ば過ぎ、ある日の昼下がり。
縁側に一人佇んでいるつららのところへ、首無が通りかかった。
「雪女、どうした?」
「あぁ、首無。見てよこれ」
と、つららは庭を指し示す。
連日の晴天で雪に隠れていた土がほとんど顔を出し、ちらほらと雪の名残らしきものが残っている。
「庭が…どうかしたか?」
「雪が解けちゃったのよ!せっかく積もってたのに…」
眉根を下げて、つららはひどく残念そうにしている。
「もう春だからな」
「だけど…。もう一回くらい降らないかしら」
まるでおもちゃを奪われてふてくされる幼子のようだと、首無は思った。
誰かさんではないが、雪んこと言うのもあながち間違いではないかも知れないと思うと、つい笑いがこみ上げる。
「雪女」
首無は掌を上に向けて、すっと腕を伸ばす。
丁度そこに、庇(ひさし)から滴り落ちた水が跳ね返った。
その掌をそっとつららの前に持ってくる。
「ごらん。雪解けの水は澄んでいて、まるで玉のようだ」
彼の掌に乗った雫は、陽射しを受けてきらきらと輝いている。
「ほんと、キレイ…」
やがてそれは、彼の体温でなくなってしまった。
「降り積もった雪景色を眺めるのが粋なら、解けた水を愛でるのもまた一興…。だろ?」
優しげに微笑む首無に、つららはうっすらと頬を染めて頷いた。
「…えぇ、そうね」
春になりきる前に見つけたのは、この時期だけの雪の玉水。
《後書き→》