BOOK(企画)
□新妻のひと休み
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ふ、と目を開けると、まずはじめに、天井の木目が目についた。
体の感覚から、自分が布団で横になっていることがわかったが、寝た記憶がない。
ここはどこだろう。
若菜は少し考えて、ここがまだ慣れない自分たちの部屋なのだと思い至る。
体が熱くて、なんとなくだるい。
「目が覚めたかい?」
頭の上から、声が降ってきた。
そちらを見れば、旦那さまになったばかりの男の人が、心配そうに覗いている。
「鯉伴さん…。…あの、私…」
「飯の支度の途中で倒れたんだよ」
首筋に手の甲を当てて、少し熱っぽいな、と彼は言う。
「ここのところ、婚儀の準備だなんだで、せわしなかったからな。それに、慣れない場所での生活だ。きっと疲れが出たのさ」
そう言われて、若菜は最近のことを振り返る。
鯉伴との結婚が決まってからというもの、毎日が飛ぶように過ぎていった。
その日々は、若菜にとって楽しいものだったが、慣れないことでもあったので、確かに疲れがたまっていたのかも知れない。
しかし、奴良組の嫁となったからには、やることがたくさんあるのだ。
「鯉伴さん、ごめんなさい…。私、家の事が…」
上体を起こしかけたが、優しい力で布団に押し戻されてしまった。
「いいから。仕事は毛娼妓や雪女らに任せて、今日は休んでな」
「でも…」
渋る若菜の手を、彼女の夫は両手で包み込んだ。
「なぁ、若菜。オレたちの生活は、まだ始まったばかりだろう?これからのためにも、今はゆっくり養生してくれ、な」
愛おしむような表情で、懇願するように言われては、若菜も聞き入れるしかない。
「はい…」
こくり、と小さく頷いた。
それに微笑むと、鯉伴は妻の手をそっと布団の中に入れた。
結局、鯉伴が退出する歳に見張りを残していったので、若菜は大人しく眠りにつくことにした。
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