BOOK(企画)

□新妻のひと休み
1ページ/3ページ


ふ、と目を開けると、まずはじめに、天井の木目が目についた。

体の感覚から、自分が布団で横になっていることがわかったが、寝た記憶がない。

ここはどこだろう。

若菜は少し考えて、ここがまだ慣れない自分たちの部屋なのだと思い至る。

体が熱くて、なんとなくだるい。

「目が覚めたかい?」

頭の上から、声が降ってきた。

そちらを見れば、旦那さまになったばかりの男の人が、心配そうに覗いている。

「鯉伴さん…。…あの、私…」

「飯の支度の途中で倒れたんだよ」

首筋に手の甲を当てて、少し熱っぽいな、と彼は言う。

「ここのところ、婚儀の準備だなんだで、せわしなかったからな。それに、慣れない場所での生活だ。きっと疲れが出たのさ」

そう言われて、若菜は最近のことを振り返る。

鯉伴との結婚が決まってからというもの、毎日が飛ぶように過ぎていった。

その日々は、若菜にとって楽しいものだったが、慣れないことでもあったので、確かに疲れがたまっていたのかも知れない。

しかし、奴良組の嫁となったからには、やることがたくさんあるのだ。

「鯉伴さん、ごめんなさい…。私、家の事が…」

上体を起こしかけたが、優しい力で布団に押し戻されてしまった。

「いいから。仕事は毛娼妓や雪女らに任せて、今日は休んでな」

「でも…」

渋る若菜の手を、彼女の夫は両手で包み込んだ。

「なぁ、若菜。オレたちの生活は、まだ始まったばかりだろう?これからのためにも、今はゆっくり養生してくれ、な」

愛おしむような表情で、懇願するように言われては、若菜も聞き入れるしかない。

「はい…」

こくり、と小さく頷いた。

それに微笑むと、鯉伴は妻の手をそっと布団の中に入れた。

結局、鯉伴が退出する歳に見張りを残していったので、若菜は大人しく眠りにつくことにした。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ