BOOK(企画)

□花を贈ろう
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奴良組傘下きっての武闘派、牛鬼組。

その組頭、牛鬼の居室を、一人の部下が訪ねてきた。

「牛鬼様、いらっしゃいますか?」

「うむ。入りなさい」

「失礼します」

行儀よく両手で障子を開けて入ってきたのは、腹心の一人、若頭補佐の馬頭丸だ。

また丁寧に障子を閉めた馬頭丸は、牛鬼の前にちょんと正座した。

やけに神妙な面持ちである。

…もっとも、馬の骨で顔が隠れているので、雰囲気だ。

牛鬼としては、長いつき合いであると同時に、ずっと世話をしてきたのだ。

何か悩みがあるなら気になるし、力になってやりたい。

「馬頭丸よ、どうした?」

「あの……女の子に何か贈るなら、何がいいんですか?」

「ほう」

牛鬼は少なからず驚いた。

牛鬼組は荒っぽい者たちばかりゆえ、女性に贈り物をしようなどと考える者は滅多にいない。

しかし、これは非常に大切な進歩である。

「ふむ……」

牛鬼はあごに手を当てて、考えるそぶりをする。

ちらりと目を向ければ、馬頭丸が身を乗り出して返答を待っている。

それが牛鬼には可愛く思えた。

「女性に贈り物をするなら、やはり花だろうな」

「そっか!さすが牛鬼様!」

馬頭丸はぱあっと顔を輝かせた。

ただし、と牛鬼は続ける。

「ただ美しいものを贈れば良い訳ではない。季節、贈る相手の好み・雰囲気、花の持つ意味…。それらをふまえてこそ、良い贈り物と言えるだろう」

「はい!ありがとうございました!」

馬頭丸はぺこりと頭を下げ、障子を開けてまたぺこりと下げて、去っていった。

軽やかな足音が遠ざかっていく。

それと入れ替わりに、もう一人の腹心、牛頭丸が姿を見せた。

相棒が騒々しく駆けていった方向を、不思議そうに見ている。

「牛鬼様、馬頭のヤツ、どうしたんですか?」

「そうか…馬頭もそんな年頃か…」

「は?」

感慨深げに頷く牛鬼に、話の見えない牛頭丸は首を傾げる。

「牛頭よ、お前も見習うべきだ」

「はぁ?」

ますますわからない牛頭丸は、首が真横になるまで曲げるのだった。


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