BOOK(企画)

□A snowman
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今朝は雪がよく積もった。

浮世絵総合病院の裏手、鬱蒼とした森の中に、土地神の祠はある。

森の手前側は、積もった雪が美しく、冬の日差しを反射している。

ただ一つ、祠へと続く道に、歩幅の狭い足跡が残っていた。

その足跡を追って、黒田坊は祠へ向かう。

水分が雪駄から染み込んで冷たい。

だが、この先にいるであろう、足跡の人物を思えば、なんのその。

果たして祠の前へ出ると。

黒田坊は一瞬、呆けた。

コートはもちろん、帽子にマフラー、手袋、長靴と、完全装備の少女が、雪玉をえっちらおっちら転がしていた。

「…………夏実殿?」

呼ばれた娘は、ぱっと顔を上げた。

実に楽しそうだ。

「お坊さんっ!こんにちは!」

「…うむ。何をしている?」

「雪だるまです!」

祠の周囲を見渡せば、雪玉を転がした跡と彼女の足跡が、縦横無尽に走っている。

夏実が今転がしているのが、人の頭ほど。

傍らには、一回り大きいものが鎮座していた。

「ここで作っていたのか?」

仮にも神前で。

「大丈夫です!ちゃんと千羽様にお参りして、許可をもらいましたから」

「…そうか」

なんとも言えずにいると、ふわふわと浮いた小さな男が、黒田坊の傍に現れた。

夏実には見えないが、折り鶴のような羽をぱたぱたと動かすこの者こそ、土地神・千羽だ。

黒田坊は、彼女に気付かれないように話しかける。

「許可したのか?」

羽をぱたぱたと動かした千羽は、苦笑ぎみだ。

「いえ…。しかし、楽しそうですから、いいかなと思いまして」

確かに、鼻唄を歌う少女は、冬と雪を満喫している感じだ。

二人で見ていると、夏実は黒田坊に向かって手を振った。

「お坊さーん!これ、乗せるの手伝ってください!」

いよいよ雪だるまが完成らしい。

「あぁ。今そちらに行こう」

いそいそと娘の元に向かう黒田坊に、千羽はやれやれと肩をすくめた。


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