BOOK(企画)
□時には酔っても
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妖怪の息づく遠野の郷では、宴であってもどんちゃん騒ぎをしないのが通例である。
しかし、正月ともなれば話は別だ。
無礼講で振る舞われた上等な酒に、皆々舌鼓を打っている。
普段ならばないことだが、飲みすぎて席をはずす者も、ちらほらいた。
そんな中、イタクはと言うと。
顔を赤くした冷麗に肩を貸して、部屋まで付き添っている途中であった。
彼としては横抱きにしたいところだ。
しかし、腕力に問題はなくとも、いかんせん身長差が問題なのである。
普段でも気にしているのに、こんな時は余計に、逆の身長差が口惜しい。
「…ったく、限度ってあるだろうが」
彼女が割と辛党なのは知っていたが、さすがに八合は多いだろう。
さっさと部屋に行って、休ませなければ。
「ん〜…イタク〜…」
「大丈夫かよ?」
冷麗がぐぐっと寄りかかってきたので、イタクは彼女を抱え直した。
しかし。
更に体重をかけられて、耐えきれず、一緒にくずおれてしまった。
イタクの上に冷麗が乗った体勢である。
「おいおい…」
イタクの顔がひきつった。
至近距離で見れば、冷麗の陶器のように白い肌は色づいて、瞳は揺らぎ、わずかに開いた唇からもれる吐息は荒い。
その状態で、冷麗はイタクの首もとにすりついた。
「ふふ…イタクの匂いがするわ…」
「なっ…」
イタクは絶句した。
これは心臓に…と言うかもう、体に悪い。
いっそ夢であってくれと、切に願うイタクだ。
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