BOOK(企画)

□我がめぐし子
1ページ/4ページ


それは、奴良組の三代目総大将が誕生する、十三年前の話。

しつこい夏の暑さもようやく消え、過ごしやすい気温になったある日。

奴良組の広い屋敷に、それはそれは元気な産声が響き渡った。

それまで庭に追い出されて右往左往していた者らは、一斉にしんと静まる。

「産ま…れた…?」

ぽつりと小さく呟いたのは、赤子の父親にして、母親の夫である鯉伴だ。

「産まれた…」

「産まれたか…」

鯉伴の両隣にいた、側近の首無と青田坊も呟く。

それを聞いた他の妖怪らも同様に口にする。

その波は徐々に広がっていき……。

最後には、屋敷全体からの大歓声へと変わった。

「産まれた…オレの子が…」

「そうじゃ。お前の子じゃよ」

歓声をどこか遠くに感じながら、鯉伴は呆然とする。

その肩を、父親のぬらりひょんがぽんと叩いた。

「親父…」

ぬらりひょんが息子から視線をずらす。

それにならって鯉伴も、未だ産声の続く母屋へ顔を向けた。

聞き慣れない泣き声は、そこに確かに子供がいる証。

「そうか…オレの子…」

ひきつった顔の筋肉をぎこちなく動かして、鯉伴はようやく笑った。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ