BOOK(企画)
□我がめぐし子
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それは、奴良組の三代目総大将が誕生する、十三年前の話。
しつこい夏の暑さもようやく消え、過ごしやすい気温になったある日。
奴良組の広い屋敷に、それはそれは元気な産声が響き渡った。
それまで庭に追い出されて右往左往していた者らは、一斉にしんと静まる。
「産ま…れた…?」
ぽつりと小さく呟いたのは、赤子の父親にして、母親の夫である鯉伴だ。
「産まれた…」
「産まれたか…」
鯉伴の両隣にいた、側近の首無と青田坊も呟く。
それを聞いた他の妖怪らも同様に口にする。
その波は徐々に広がっていき……。
最後には、屋敷全体からの大歓声へと変わった。
「産まれた…オレの子が…」
「そうじゃ。お前の子じゃよ」
歓声をどこか遠くに感じながら、鯉伴は呆然とする。
その肩を、父親のぬらりひょんがぽんと叩いた。
「親父…」
ぬらりひょんが息子から視線をずらす。
それにならって鯉伴も、未だ産声の続く母屋へ顔を向けた。
聞き慣れない泣き声は、そこに確かに子供がいる証。
「そうか…オレの子…」
ひきつった顔の筋肉をぎこちなく動かして、鯉伴はようやく笑った。
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