BOOK(企画)

□わけあう甘さ
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アイスは、大概は暑い夏に食べるものだ。

しかし、寒い冬に、よく暖まった部屋で、特に風呂上がりなんかに食べるアイスは、また格別だったりする。

そんな訳で。

「ん〜、おいしいっ」

奴良組屋敷の居間で、若菜は妖怪たちとストーブを囲んで、アイスを頬張っていた。

ちなみに若菜は風呂上がりで、厚手の羽織――どてらとも言う――を着ている。

そこに、後から湯を貰った夫の鯉伴が、手拭いで頭をがしがしやりながら顔を覗かせた。

「そこで何やってんだ?」

いち早く反応したのは若菜だ。

「鯉伴さん!みんなでアイス食べてたの。鯉伴さんも食べる?」

「アイス?」

若菜が持っているのは、バニラアイスをチョコでコーティングした、棒つきアイス

彼女が好きなやつだ。

「いや、オレは…」

遠慮しかけた鯉伴だが、ふいに言葉を止めた。

何を考えたか、口の端をにいっと引き上げる。

「やっぱり、貰おうか」

「じゃあ、新しいのを持ってくるわね!雪女ちゃんの氷で冷やしてあるのよ」

「いや、いい」

ぱっと立ち上がった妻の手を、鯉伴が捕らえた。

おもむろに若菜に一歩二歩近づき――。

「りっ、鯉伴さん!?」

若菜の手から、食べかけのアイスにぱくりと噛みついた。

「……甘ぇな」

予想以上に甘かったのか、鯉伴は眉を少ししかめて唇をなめる。

間近で見る彼は、風呂上がりのため髪は湿り、頬もわずかに上気して。

妖しい色気が、いつもより三割は増している気がした。

若菜が素直に頬を染めていると。

「口直し」

と、鯉伴はさりげなく、若菜の唇をなめた。

「えっ…」

「ん、やっぱり甘ぇや」

ストーブのように真っ赤になった若菜とは逆に、鯉伴はしたり顔で己の唇をなぞっている。

そして若菜の肩を抱いて、その耳に囁いた。

「寒くならねぇうちに、部屋に来いよ。待ってるからな」

固まった若菜に妖艶な笑みを見せて、鯉伴は踵を返した。

……ちなみに、しもべの妖怪たちはと言うと。

主が妻の手を取ったあたりから、揃って顔を背けていた。



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