BOOK(企画)
□赤の魔法
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「ねぇ、お兄さんっ!これとかどうですか?」
星柄のシュシュを手にした夏実が振り返る。
「うん?あ、あぁ…」
曖昧な返事をしたのは、長髪を首の後ろでくくった、スーツにロングコートという出で立ちの、若い男性だった。
ことの始まりは数日前。
「友達の誕生日プレゼントを買いに出かけるんですけど、一緒に行きませんか?」
そんな風に、黒田坊は夏実に誘われた。
人間の街に出るには変装すればいいのだが、それが問題だ。
なにしろ黒田坊には、変装時に(不可抗力だが)夏実の体を触ってしまったという前科がある。
買い物当日。
内心冷や汗ダラダラで、待ち合わせ場所にいた黒田坊…いや、長髪の青年。
幸い、夏実は黒田坊が不埒者の男だとは、全く気づかなかった。
それはそうと、街中でお坊さんと呼ばせると不審がられる。
別の呼び方を頼んだところ、お兄さんと呼ばれることになった。
慣れないが、まんざらでもない黒田坊である。
そんな訳で。
黒田坊は夏実に着いて回り、若い女性向けのよくわからない雑貨に圧倒されながら、一緒にプレゼントを選んでいた。
休憩がてら入ったセルフ形式のカフェは、なかなか混んでいた。
無事にプレゼントを買えた夏実は、嬉しそうに抹茶ラテを飲んでいる。
ブラックコーヒーをすする黒田坊は、頬杖をついて微笑んだ。
「満足か?」
「はいっ!やっぱりお買い物って楽しいです!」
「そうか、良かった」
正直なところ、あちこち引っ張られてヘトヘトの黒田坊である。
だが、楽しそうな夏実を見ていれば、まぁいいか、と思うのだ。
「あ、そう言えば」
抹茶ラテをストローで吸った夏実は、何かを思い出したように声をあげた。
「私ばっかりお買い物につき合って貰っちゃいましたけど、お兄さんは、買いたいものとかないんですか?」
「いや、拙僧は特には…」
「そうですか。お兄さんがどういうのに興味あるか、知りたかったのにな」
残念そうな夏実には済まないが、黒田坊は人間のものにはあまり惹かれない。
しかし、購入してもいいと思うものが、ないこともなかった。
「……と、言いたいところだが」
黒田坊はコートのポケットに手を入れ、一つの袋を取り出した。
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