BOOK(企画)
□赤の魔法
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出された袋は、先ほどプレゼントを選んだ雑貨店のものだ。
彼はいつの間に買ったのだろう。
「何を買ったんですか?」
「開けてみるといい」
促されて、夏実は丁寧に封を開ける。
「えっ…」
出てきたのは、リアルな花の香りで人気の、リップグロスだ。
おとぎ話のお姫様が持っているような、キラキラした可愛いデザインがまた、乙女心のど真ん中に命中する。
夏実は見かけるたびに、欲しい欲しいと思っていた。
だけど、中学生のお小遣いでは厳しいから、いつか絶対買おうと決めていたものだった。
「これって…」
「欲しかったのではないのか?」
黒田坊は穏やかな笑みを、その整った顔立ちに乗せている。
夏実は思わず、彼とグロスを見比べた。
「これ、私に…?」
「あぁ。店に入ってすぐ、これに目が釘付けになっていたから、てっきりそうだと思ったのだが。拙僧の勘違いだったか?」
夏実はふるふると首を振った。
「ううん。すっごく欲しかった…!」
夏実は改めて、手の中のグロスを見つめた。
グロスが欲しかった理由。
それは、彼に似合う女性になりたいと思ったから。
彼は落ち着いた大人で、なのに自分は子供。
グロスやリップをつければ、大人に近づけるんじゃないかと思った。
憧れて、欲しかったもの。
それが今、他でもない彼によって、ここにある。
「お兄さん…、ありがとうございます…!」
このグロスを大切にしよう、と夏実は決めた。
苺みたいなピュアな赤は、大人になれる魔法。
喜びを惜しみなくこぼす夏実に、黒田坊も優しく微笑んだ。
《後書き→》