BOOK(企画)

□一日の計は早朝にあり
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すぱーん、と勢いよく障子が開けられて、早朝の眩しい光が部屋になだれ込む。

同時に清らかな風が駆け巡り、鯉伴は身震いして、布団の中で縮こまった。

「…なんだ、こんな早くから…」

未だ安眠を貪りたい鯉伴は、暖をとろうと、隣の布団に手を伸ばす。

しかし、そこにいつもの温もりはなく、そもそも布団すらなかった。

仕方なく鯉伴は、首を巡らせて障子の開いた入口を見る。

その光の中に、愛しい妻が立っていた。

妻はくるりと振り返ると、朝日に負けないくらいの笑顔を見せた。

「鯉伴さんっ、おはよう!」

若菜は既に身支度を整えていた。

鯉伴の布団をべりっと剥がす。

「ほらほら、起きて!とってもいいお天気よ!」

「おい、若菜…」

若菜に引きずり出されて、しぶしぶ鯉伴は布団から這い出た。

とりあえず、乱れた単衣の裾だけ軽く直す。

ふぁ、とあくびをして、若菜と並んで入口に立つ。

朝日の眩しさに、鯉伴は軽く目を細めた。

空は蒼く澄んでいる。

「…あぁ。確かによく晴れてるな」

「でしょう?」

だが、鯉伴のような寝坊助には早い時間だ。

おまけに、少し冷える。

鯉伴は若菜の後ろに回り、その両肩に手を乗せた。

「少し冷えちまったよ。若菜、暖めてくれ」

声に多少の熱を含ませて、妻に甘える。

「鯉伴さん…」

若菜の手が鯉伴のそれに添えられる。

気をよくした鯉伴が、そのまま腕を交差させる。

しかし、その前に若菜がするりと抜け出した。

結果、鯉伴は空気を一人で抱きしめるという、妙な格好になってしまった。

「待ってて、おいしいお味噌汁作ってあげる!」

「え…」

「ちゃんと着替えて、お顔を洗ってきてね!」

ぱたぱたと台所に向かう若菜を、鯉伴はぽかんと見送った。

やがて口を閉じて、ぽりぽりと首の後ろをかいた。

「…ま、仕方ねぇか。朝だしな」

そして今思い出したかのように、うーんと伸びた。

「たまには早起きもいいもんだな」

天気がいいなら、一緒に散歩に行くのもいいだろう。

そんなことを考えながら、鯉伴は洗面所へ足を向けた。



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