BOOK(企画)

□こたつと蜜柑と昔語り
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寒い冬、こたつでぬくぬくと暖をとり、良く熟れた蜜柑を頬張る。

どこの家庭でもよくある光景だ。

しかし、妖怪の極道一家でそんなことをしていては、いささか…いや、かなり珍妙である。

にも関わらず。

その妖怪極道の頂点に立つ奴良組では、まさにこたつで暖をとり、蜜柑を頬張っていた。

「蜜柑が美味しい季節になったわねぇ」

のんびりしながら、毛娼妓はひと欠片の蜜柑を口に放り込んだ。

「本当だな」

相槌を打ちながら、首無は皮をむいている。

毛娼妓はまた一つ、二つと口に入れていく。

その手元を見て、首無は口を開いた。

「毛娼妓、いいのか?まだ白い筋が残っているぞ」

その言葉には、ほんの少しだけ、からかいの色が含まれている。

それを正確に読み取って、毛娼妓は首無を横目で見た。

「何よ?」

「いや。ちょっと昔を思い出してな」

首無は喉の奥を鳴らして笑った。

彼の言う昔とは、まだ二人が人間だった頃。

毛娼妓が紀乃と言う名の吉原の禿で、首無がそこに出入りする、名もなき義賊だった頃の話である。

あの頃も、冬になると蜜柑を食した。

幼い紀乃は、蜜柑の皮をむく時、身についた白い筋を取り除くのに真剣になった。

子供ながらに、何か義務感のようなものがあったのだろう。

食べることそっちのけなので、首無がかわりに蜜柑を口まで運んでやったこともあった。

「あの時のおまえの顔が、おかしくてな」

「出さなくていいわよ。そんな大昔の話」

毛娼妓はバツが悪そうな顔をした。

「今はもう、綺麗に取ったりしないのか?」

首無は楽しそうに口の端を上げる。

「いいのよ。筋が多少ついてたって、蜜柑は美味しいもの」

毛娼妓は残ったひと欠片を、口に含んだ。

そしてがさごそと皮を片付け始める。

どうやら、昔語りはもう終わりのようだ。

「毛娼妓」

ならば最後にと、首無はひと欠片の蜜柑を毛娼妓の口元に差し出した。

それは白い筋を、これ見みよがしに綺麗に取り除いたものだ。

「な、何よ」

「何って、おまえの好きな蜜柑だろう?」

「それは見ればわかるわよ」

「だったら食べればいい」

「あのねぇ。子供じゃないんだから…」

完全に遊ばれている。

しかし、いつまでもこの状態でいては、他の奴らに何を言われるか。

「ほら」

再度促されて、毛娼妓はぱくりと蜜柑に噛みついた。

したり顔でも綺麗な首無の顔が、憎らしく思えた。



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