BOOK(企画)
□日本の風物詩〜桃〜
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彼は、端正に整った顔をきりりと引き締め、前方をしかと見据えている。
髪をきっちり結い上げて、胴に余裕のある衣装であるのに隙がない。
彼女は、凛とした中に優しさをたたえて、微笑んでいる。
艶やかな黒髪を背に流し、着ているものは虹よりも鮮やかだ。
はっと目を惹き付けられるような、麗しいつがいである。
「毎年、春先になるとこの人形だすよなぁ。なんか意味あんのか?」
左右に体を揺らすキッドに、菱形のケーキを用意していたドラミが答える。
「内裏雛は厄除けの身代わりになってくれると言われてるのよ」
嫁入り道具でもあるのよ、とドラミはつけ足す。
「ふうん」
キッドは、台座に座す対になった人形――特に女性の方を、じろじろ眺めて。
おもむろに、びしっと人形を指さした。
「なぁ。これ、十二単って言うんだろ?ホントに十二枚も着てんのか?せいぜい五・六枚だろ」
「それは物の喩えよ」
疑わしげなキッドにドラミは苦笑で返した。
キッドの隣に並んでしゃがみ、一緒に内裏雛を鑑賞する。
「憧れるなぁ。一度でいいから着てみたいな」
ドラミはうっとりと目を細めた。
「重そうだけどな」
「それでも!女の子はお姫様になりたいの!」
「お姫様ねぇ」
ドラミは十二単を着た自分を思い描いてみた。
色とりどりの着物に包まれて、髪飾りも差して、化粧も施されて……。
その時、もし隣に、男雛の衣装のキッドがいたら――。
ドラミは思わず頬をおさえた。
しかし。