BOOK(企画)
□夢にみるは貴方
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若菜が昼日中の睡眠を楽しんでいる部屋で。
気配を消して進む足が、ひとつ、ふたつ。
「リクオ、母さん寝てるから“しぃー”だぞ」
鯉伴が声をひそめて、静かにするように所作で示せば。
「うん。“しぃー”だね」
彼の足元で、息子が父を真似て口に人差し指を当てる。
鯉伴は持ってきた毛布を、妻の膝から下に置いた。
と、息子が袖をぐいと引っぱって、目で何かを訴えている。
鯉伴はつい吹きかけて、場所を譲ってやった。
息子は、その小さな手で毛布をえっちらおっちら引き上げ、母に肩までかけてあげた。
どうだ、と言わんばかりの息子の頭を、鯉伴はぐりぐりとなでた。
「……んぅ……」
ふいに若菜が身じろぐ。
父と息子は同時に静止する。
しかし、再び寝息が聞こえてきて、二人で肩をおろした。
顔を見合わせて、無言で笑いあっていると。
「りはん、さ……」
若菜の喉から発せられた、夫の名。
「若菜……」
愛しい妻の夢の中に己がいるのか――。
柄にも年甲斐もなく、鯉伴が感激に浸っていると。
また袖がぐい、と伸びた。
顔を下に向ければ。
息子が頬をいっぱいに膨らませて、睨んできていた。
おそらく、お父さんばかりずるい、と言いたいのだろう。
そんな息子の仕草が可愛いのと、母に呼ばれなかったことが惜しいのと、どうしても優越感が滲みでてしまうのと。
反応に困って、鯉伴は苦笑をもらす。
その時、若菜がわずかにまぶたを上げた。
「……リクオ……?」
顔の半分を伏せていたせいか、息子だけに気付いたらしい。
鯉伴と若菜の息子はぱっと顔を明るくすると、母の懐に入った。
「どうしたの……?」
「おかーさん、だいすきー」
「……ふふ。私もよ……」
やや舌が足りていない若菜は、すり寄る息子を抱き寄せる。
間もなく、一人分だった寝息は二人分に増えた。
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