BOOK(企画)

□グリーンティー・キッス
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妖怪一家・奴良組の賑やかな食卓。

そこに相棒と共に交ざっていた馬頭丸は、食後のお茶を貰ってひとくち飲んだ。

「雪女、このお茶いつものと違うね」

呼び掛けられたつららは嬉しそうに顔を上げた。

「そう!今日はお抹茶を淹れてみたの。どう?」

「……うん、美味しいよ!」

若干の間を気にしつつも、つららは破顔する。

「馬頭丸は素直ね。それに比べて…」

彼の隣で黙ってお茶を啜っている男を、つららはじろりと睨んだ。

「そんなに不機嫌そうにされちゃ、たまったものじゃないわ。少しは馬頭丸を見習ったらどう?」

「フン」

牛頭丸は飲み終えた湯呑みをどんっと置いた。

「牛頭丸も、もう少し愛想良くしたら?気持ちは分かるけどさ」

「気持ち?」

「な、なんでもないっ」

そう言うと馬頭丸は、残りを一気飲みする。

「ごちそうさまでした!ホラ、牛頭丸も!」

部屋を出て行く馬頭丸に続いて、牛頭丸も立ち上がった。

「雪んこ」

「な、何よ…!」

「あの茶、自分のは淹れたのか?」

「淹れてないけど…」

自分の分を心配してくれているのかとつららは一瞬思ったが、それは間違いだった。

「ハッ。どうりでな」

「…何が言いたいの」

牛頭丸は鼻で笑う。

「てめぇの淹れた茶の味、分からせてやるよ」

反論する隙も、意図を問う隙も与えられず。

一瞬だけ重なって、それは離れた。

つららの唇に残るのは、火傷のような熱と。

「…苦い」

「そういうこった。次はもっとマシなのを淹れるんだな」

牛頭丸はさっさと背を向けて、捨て台詞を吐いて部屋を出た。

呆然としていたつららは、思い出したように息を吸う。

お茶の香りがすうっと鼻に抜けていった。



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