BOOK(企画2)

□夏の日の流しそうめん
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じりじりと照りつける、盛夏の日差し。

清らかな水の上を、絹の白糸が流れてゆく。

その白糸を、二本で対をなす細い木の棒がすくい上げ……。

「おりゃあぁぁっ!大量ゲットだぜーっ!」

「さっすが特攻隊長、青田坊様!」

流れるそうめんを箸でごそりとすくう青田坊を、清継が激賞する。

周囲からは、当たり前だが非難の声が飛びかかる。

「……っあ、行っちゃった〜」

「焦らず、落ち着いて待っていればいい。そうめんはまた流れてくるからな」

夏実と黒田坊は、蒸し暑いと言うのに和やかだ。

奴良組の庭いっぱいに、半分に割った竹が組まれた。

その流し台の横で、妖怪たちが思い思いにそうめんをすすっている。

……なぜかそこに、夏合宿と称して突撃――否、遊びに来た清十字団が参加しているが。

「みんな、まだまだあるから沢山食べてね」

そこへ、大きなざるを抱えた若菜が出てきた。

「若菜さん、私もっと茹でてきましょうか?」

「ありがとう、カナちゃん。助かるわぁ」

若菜の後ろから出てきたカナは、またぱたぱたと屋内へ戻っていく。

そんなやりとりを眺めていたぬらりひょんが、ほほう、と唸った。

「なかなか働き者の娘じゃのぅ」

祖父の横でのんびり楽しんでいたリクオは、そうめんを半分くわえたまま、振り向く。

そうしてから、ずぞっとすすった。

「うん、いい子だよね」

「これなら及第点じゃ。将来が期待できるのぅ」

「何の話?」

リクオは流れるそうめんをすくい、めんつゆにつける。

「もちろん、三代目の嫁の話じゃよ」

口に運んだところで、思いっきりむせた。

「嫁!?ってか、三代目ってボクなんだけど……えぇっ!?」

ゲホゴホと咳き込むリクオのかたわらで、ニヤリと口角を上げる祖父は、まさにぬらりひょんの顔だ。

「ワシも鯉伴も、人間のおなごと結婚したんじゃ。お前だって人間の嫁をもらったって、何の問題がある」

「気が早いって、じいちゃん!ボクまだ中学二年だよ?」

「妖怪としては成人しておろうが」

「まぁそうだけど……」

リクオは静かにそうめんをすする。

少しだけ、めんつゆが跳ねた。


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