BOOK(企画2)
□夜の華
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東京下町、錦鯉地区の縁日は、冬も夏も大賑わいだ。
ことに夏は、老若男女が入り乱れ、盛況に拍車がかかっている。
運営側は、例えでなく目が回る程忙しい。
昼に始まって、日が落ちてもお客は減らず――むしろ増えるばかり。
それでも、荒鷲一家の強い推しもあって、つららは休憩に入ることに成功した。
「ふうっ」
神社本殿の軒下に腰かけて、自前のかき氷を頬張る。
「んっ、やっぱり働いた後のこれは最高!」
匙に山盛りにして、もう一口。
それこそ、てんてこてんてこ舞っていた状況だが、やりがいがあって、何より楽しい。
これなら、奴良組に帰って良い報告ができる。
「あれ?でも、何か足りないような……」
首を右に倒し、左に捻り。
「……あ」
思い当たった事柄に、つららは眉を寄せた。
いつも何かにつけて邪魔をしてくる、不届き者がいない。
まさか、何処かでせせら笑っているんじゃ――!
はっと顔を上げた、その時。
藍色の空に光が散り、次いで、爆音が身体を駆け抜けた。
「そう言えば、荒鷲一家のひと達が、夜には花火が上がるって言ってたっけ……」
彩り豊かなそれが、一日の働きを労ってくれているみたいで。
ほっとしながら、つららは次々に咲く花に魅入っていた。
ふと、かき氷を食べていた途中だった事を思い出す。
夜空から手元に視線を移す、その途中で。
何かが視界の端に引っ掛かった。
無視と言う選択肢もあったけれど――つららは気付いてしまった。
本殿の傍らに生える樹木の上の、影に。
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