BOOK(企画2)

□夜の華
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耳朶を叩いた爆音に、牛頭丸は瞼を上げた。

寝た記憶はないが、辺りの暗さから推測するに、いつの間にか日が暮れたらしい。

頭を振って睡魔を追い出す間も、爆音は不規則に続いている。

「なんだ……?」

音を辿って頭をもたげれば。

牛頭丸の視界に、青緑色の花が弾けた。

「……花火、か」

それはすぐに塵と消え、また新たな花が上がる。

牛頭丸にすれば、綺麗だとか、そんな感傷的な感情は湧かない。

人の手で作られたそれは、まさに人そのものを表している。

けれども、何故か目が離せない。

しばらく眺めてから牛頭丸は、己がこんな所――錦鯉地区なんかにいる理由を思い出した。

縁日で働くと言うから、隙をみて口を出してやろうとしていたのだ。

誰に、など、決まってる。

牛頭丸は、眼下の屋台で成された灯りの列を、視線でなぞった。

端から端まで目を通して、片目をすがめる。

ちょこまか動く白い物体など、目立つ筈なのに。

また視線で戻って――探し物は、案外近くにあった。






向こうもつららに気付いたらしい。

表情は見えるけれど、普通に会話をする声量では、声は届かない。

「やっぱりいた……!」

つららは、むっとして見返す。

しかし、牛頭丸は若干眉を寄せただけで、ついと顔を逸らした。

黙って花火でも見てろ、とでも言いたげだ。

「なんなの……」

つららとて、目を合わせていたい訳じゃない。

かき氷の器にぐさりと匙を刺して、氷をぱくりと口に含んだ。

そして、闇に咲く儚い華を見つめて。

「綺麗……」

つららは呟いた。



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