BOOK(企画2)

□特製かき氷・蜂蜜漬けレモン乗せ
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奥州は遠野の、妖怪の隠れ里。

汗でべたつく体と貼りつく衣は、耐えがたいものがある。

まだ日も高いうちから湯を浴びた面々は、板張りの間で思い思いにだらけて――否、くつろいでいた。

大の字に寝転がる雨造。

「あちー……」

己の手を団扇にあおぐ淡島。

イタクは、黙っていても滴る汗を、気怠げにぬぐう。

「みんな、元気ないのね」

そこへ涼しい笑顔を見せたのは冷麗だ。

こんな時、冷気をあやつる妖怪はいいな――と思う男衆である。

「そんな時は、これよ」

と、冷麗はたずさえていた盆を、全員の真ん中に置いた。

「私特製かき氷、はちみつ漬けレモン乗せ!」

盆の上には、人数分の硝子の器。

きらきらと輝く欠片が山になり、てっぺんには切り口の見事なレモンの輪切りが、ちょんと鎮座していた。

淡島と雨造は、冷麗が渡す前に器をひったくり、氷をかきこむ。

そして、案の定、額を押さえた。

「阿呆か……」

再びがっつく二人を半目で見つつ、イタクはかき氷を受け取った。

はちみつをくぐったレモンは、美しい黄金色をしている。

イタクはレモンの下を匙ですくい、口に運ぶ。

舌の上で甘さと酸味が溶け合い、そこに氷の冷たさがアクセントとなって、なんとも絶妙だ。

「イタク、美味しい?」

「あぁ、美味い。やっぱ夏はこれだな」

後ろで悶絶している奴らの二の舞にならないよう、イタクは調整しつつ氷を食する。

すると隣で、ふふ、と笑う声がした。

「なんだよ」

「ううん。なんでもないわ」

冷麗は何が楽しいのか、くすくす笑っている。

イタクは眉を軽く寄せつつ、レモンをぱくりと口に入れる。

しみ出る果汁は、イタクの活力を、はっと目覚めさせた。



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