BOOK(企画2)

□朱夏流水
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あえて色をつけるとしたら、朱(あか)だ。

ぎらぎらと燃える朱。

それほどの強い日射しのもと、川の水がさらさらと流れていく。

空を裂いて、水面の上を石が走る。

それは断続的に水面を叩き、次第に感覚が短くなって。

十を越えたところで、石は小さく音を立てて沈んだ。

「すごい、リクオくん。あんなに跳ぶなんて」

「たまたまだよ」

石を投じたリクオははにかんで、別の石を拾う。

彼の手から放たれたそれは、生き物のように躍動的に、水の上を跳ねていった。

「わぁ……」

開いたカナの口から感嘆の声がもれた。

「カナちゃんもやってごらんよ」

「う、うん」

頷いて、カナは足元を見回す。

河原には、色も大きさも形も様々の小石が散らばっている。

その中で、できるだけ平べったくて、きれいな円形のものを選ぶ。

横投げに構えて、腕を振る。

一回、二回……。

けれど、石はすぐに水中に隠れてしまった。

「あぁ、また〜」

カナは何度かチャレンジしていたが、うまく跳んでいないのだ。

「どうすればうまくいくのかなぁ」

「そうだなぁ」

首を傾げるカナの隣で、リクオも同じ仕草をする。

「まず、腰を落として……」

と、リクオが実行してみせる。

カナも真似した。

「肩から腕の力は抜いて、投げる時に手首のスナップをきかせる感じで……」

石はリクオの手から、ごく自然に放られる。

一拍遅れてカナの手からも放たれるが、少しぎこちない。

二つの軌跡が水面に描かれる。

その差は、やはり、はっきりしていた。

「やっぱり難しいよ〜」

ぷぅ、と頬を膨らませたカナ。

「うーん。……カナちゃん、ちょっとごめんね」

「へ?」

リクオがカナの背後に回った。

と、石を持たせられて、その右手にリクオの右手が重なった。

「え、リクオくん!?えぇ!?」

彼のもう片方の手は肩に添えられる。

「力入れちゃダメだよ。まずは姿勢を低く……」

「え、あっ……」

肩に軽く圧力をかけられて、カナは一緒に腰を落とす。

前傾になって、腕を――手首を意識しながら――振り抜いた。
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