BOOK(企画2)
□涼を運ぶ音色
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――リン、リン……
涼やかな音色に、鯉伴は閉じていた瞼を細く開けた。
視界の半分を占める軒に、可憐な朝顔が描かれた風鈴が揺れている。
近頃はめっきり見かけなくなった風物詩も、奴良組ではいまだ現役だ。
「夏、だな……」
誰にともなく鯉伴は呟いて、寝返りをうつ。
そして柔らかな枕に顔を埋めた。
すると、その枕から、小さく笑う音が届いた。
「鯉伴さんったら、暑くないの?」
片目を開ければ、幼妻が眉をハの字に、手を口許に当てて、肩を揺らしている。
「そりゃあ暑いさ」
しかし、鯉伴は妻の膝から頭を上げようとしない。
それどころか、鼻をすりつけている。
言と動がかみあっていない。
若菜が座し、鯉伴が横になっている縁側には、時折微かな風が流れる。
それに合わせて、軽やかに奏でられるものがある。
夫の、妖怪の主らしからぬ仕草に苦笑した若菜は、頭をもたげた。
雲の欠片すらない空は、はっとするほど蒼い。
「今日もいい天気ね」
「あぁ……」
膝の上から返ってきた相槌は、半分寝ている。
リン、と鳴った優美な音色は、二人に涼をもたらし、耳の奥で木霊した。
《後書き→》