BOOK(企画2)

□夏の雪
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さらさらと、真夏に雪が降る。

いや、降っているのは細かな氷の欠片だ。

それはガラスの器に積もっていき、あっという間に、冷たい甘味ができあがった。

一口含めば、舌の上でなめらかに解けて、体の中から涼が染み渡る。

「うん、美味しい」

満足げに氷を頬張るリクオの隣で、カナもゆっくり口に運ぶ。

強い日射しがちょうど遮られる、奴良家の縁側。

そこに、リクオをはじめとした奴良組妖怪のみならず、カナら清十字団の面々も、一緒にずらりと並んでいる。

そして、揃ってかき氷を咀嚼している。

なかなか珍妙な光景だ。

かき氷を食べつつ、カナは思いふけっていた。

きらきら輝くこの甘味は、つらら特製だ。

彼女が腕を振るだけで、何もないところから氷が現れた。

それは、まるで手品や魔法のような、幻想的な光景だった。

単純に、すごいと思う。

けれども、同時に、腹の底が冷えるような感覚を覚えるのだ。

「妖怪なんだね、及川さん……」

自分にはない力を持っていて、自分にはできない事ができる。

かき氷が、奥歯にキン、としみた。

「カナちゃん、どうしたの?」

リクオに顔を覗かれて、カナははっと我に返った。

「う、ううん。なんでもないよ」

手を左右に振って、笑顔を取り繕ってみせて……カナは思った。

――今、私きっと嫌な顔してた。

彼には知られたくない。

彼にぶつけるなんてお門違い。

けれども――。

「リクオくん。私……」

「え?」

胸の内に留めておくには、少しばかり、難しかった。


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