BOOK(企画2)
□夏の雪
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「……何か、とは?」
スプーンを動かす手を止めて、黒田坊はななめ下に顔を向けた。
かき氷を食している途中で、夏実から唐突に相談――と言うより嘆願に近かったが――を受けた。
曰く、「私にも何かできないですか?」とのこと。
隣に座る夏実は、泣くのを耐えているような顔をしている。
「これ……」
と、夏実は目を落とす。
彼女の両手に包まれた器、その中できらめく氷。
「これを作ってるつららを見て思ったんです。彼女は氷でなんでもこなせて……戦うことだってできる。でも、私にはそんなことできないから……」
器を持つ夏実の指先が、赤くなっている。
「せめて、お坊さんのそばにいてもおかしいと思われないような、理由が欲しいんです」
ゆえに少女は、己の存在意義を探すのか。
黒田坊は、かき氷を静かに脇に置いた。
「――我ら戦に赴く者には、強く欲するものがある」
何かわかるか?と目で問えば、夏実は首を振る。
「それは、帰る場所だ」
「帰る、場所……?」
「さよう。とは言っても、ただ雨風を凌ぐだけではない。そこに待っていてくれる者があって、“帰れる場所”となる」
夏実が唇をかんで、黒田坊をじっと見つめている。
「言い換えれば、帰る場所とは、待っている者の許だ」
無事を祈っていてくれる存在があるから。
たとえ己の足で歩けずとも、生きて帰ろうと思う。
「拙僧にとっての、帰る場所であって貰いたい」
唇を切ってしまわないように、そっと夏実のそれに指を這わせて、力を抜けさせる。
「それでは不満か?」
「お、坊さ……」
諭して尚、夏実の瞳は揺れている。
黒田坊は、口の端を緩やかに上げてみせて、微笑んだ。
夏実はふるふると首を振り……唇にある黒田坊の指を、両手で握った。
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