BOOK(企画2)

□夏の雪
2ページ/4ページ


「……何か、とは?」

スプーンを動かす手を止めて、黒田坊はななめ下に顔を向けた。

かき氷を食している途中で、夏実から唐突に相談――と言うより嘆願に近かったが――を受けた。

曰く、「私にも何かできないですか?」とのこと。

隣に座る夏実は、泣くのを耐えているような顔をしている。

「これ……」

と、夏実は目を落とす。

彼女の両手に包まれた器、その中できらめく氷。

「これを作ってるつららを見て思ったんです。彼女は氷でなんでもこなせて……戦うことだってできる。でも、私にはそんなことできないから……」

器を持つ夏実の指先が、赤くなっている。

「せめて、お坊さんのそばにいてもおかしいと思われないような、理由が欲しいんです」

ゆえに少女は、己の存在意義を探すのか。

黒田坊は、かき氷を静かに脇に置いた。

「――我ら戦に赴く者には、強く欲するものがある」

何かわかるか?と目で問えば、夏実は首を振る。

「それは、帰る場所だ」

「帰る、場所……?」

「さよう。とは言っても、ただ雨風を凌ぐだけではない。そこに待っていてくれる者があって、“帰れる場所”となる」

夏実が唇をかんで、黒田坊をじっと見つめている。

「言い換えれば、帰る場所とは、待っている者の許だ」

無事を祈っていてくれる存在があるから。

たとえ己の足で歩けずとも、生きて帰ろうと思う。

「拙僧にとっての、帰る場所であって貰いたい」

唇を切ってしまわないように、そっと夏実のそれに指を這わせて、力を抜けさせる。

「それでは不満か?」

「お、坊さ……」

諭して尚、夏実の瞳は揺れている。

黒田坊は、口の端を緩やかに上げてみせて、微笑んだ。

夏実はふるふると首を振り……唇にある黒田坊の指を、両手で握った。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ