BOOK(企画2)
□一瞬よ、永久に輝け
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出店の売り子たちが威勢よく声を張り、その前を人がせわしなく行き交う。
大勢がひしめき合って、連れの声すらも聞こえない。
だと言うのに、誰も彼もが楽しげだ。
喧騒の中で、一部の塊が一際高く歓声を上げた。
それはさざ波のように、あっという間に広がる。
周囲につられて、夏実もかじっていたわたあめから顔を上げた。
「わぁっ!」
宵の藍空に、大輪の花が咲く。
それはすぐに散り、惜しいと思う間もなく、また打ち上がった。
華やかに次々に花開くそれは、人々の心を捕らえてやまない、夏の芸術だ。
「これは見事だな」
すぐ近くで、落ち着いた称賛の声がした。
夜空を眺めて悠然と唇に笑みをたたえる彼――笠のお坊さんは、美しかった。
男性に対して美しいとか言うのは変かも知れないけれど、夏実は本当に、そう思った。
彼が着ているのは、いつもの黒い着物ではなく、渋い色の浴衣だ。
すらりと高い身長に、全体的に引き締まっているのがわかる。
ゆるく一つに結わえて前に流した髪は、くせがなく漆黒で、和装にぴったりだ。
何より目を奪われるのは、涼しげな目許と、それを際立たせる整った顔立ち。
もし彼に扇子を持たせたら、舞人だと言えば信じてしまうだろう。
……とたんに、恥ずかしさがこみ上げて、夏実は俯いた。
当然視界に入る、甘い甘いわたあめ。
浴衣なのは自分も一緒なのに、どうしてこうも、違うのだろう。
鮮やかな黄色の布地とピンクの帯が、野暮ったく見えてしまう。
――浴衣、もっと大人っぽいのだったら良かったのかな……。
好きなはずのわたあめを、夏実は今すぐに捨ててしまいたかった。