BOOK(企画2)

□一瞬よ、永久に輝け
1ページ/3ページ


出店の売り子たちが威勢よく声を張り、その前を人がせわしなく行き交う。

大勢がひしめき合って、連れの声すらも聞こえない。

だと言うのに、誰も彼もが楽しげだ。

喧騒の中で、一部の塊が一際高く歓声を上げた。

それはさざ波のように、あっという間に広がる。

周囲につられて、夏実もかじっていたわたあめから顔を上げた。

「わぁっ!」

宵の藍空に、大輪の花が咲く。

それはすぐに散り、惜しいと思う間もなく、また打ち上がった。

華やかに次々に花開くそれは、人々の心を捕らえてやまない、夏の芸術だ。

「これは見事だな」

すぐ近くで、落ち着いた称賛の声がした。

夜空を眺めて悠然と唇に笑みをたたえる彼――笠のお坊さんは、美しかった。

男性に対して美しいとか言うのは変かも知れないけれど、夏実は本当に、そう思った。

彼が着ているのは、いつもの黒い着物ではなく、渋い色の浴衣だ。

すらりと高い身長に、全体的に引き締まっているのがわかる。

ゆるく一つに結わえて前に流した髪は、くせがなく漆黒で、和装にぴったりだ。

何より目を奪われるのは、涼しげな目許と、それを際立たせる整った顔立ち。

もし彼に扇子を持たせたら、舞人だと言えば信じてしまうだろう。

……とたんに、恥ずかしさがこみ上げて、夏実は俯いた。

当然視界に入る、甘い甘いわたあめ。

浴衣なのは自分も一緒なのに、どうしてこうも、違うのだろう。

鮮やかな黄色の布地とピンクの帯が、野暮ったく見えてしまう。

――浴衣、もっと大人っぽいのだったら良かったのかな……。

好きなはずのわたあめを、夏実は今すぐに捨ててしまいたかった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ