BOOK(企画2)

□一瞬よ、永久に輝け
2ページ/3ページ

「……どうした?」

耳のそばで聞こえた声に、夏実はハッとした。

「お、お坊さん……!」

顔を上げて、その近さに肩を跳ねさせた。

彼の長めの前髪が、額にかかる。

「どこか調子が良くないのか?」

「い、いえっ……。あ、そうだっ、花火……!」

けれど、花火は余韻を残して燃え尽きたところで、その後に昇るものはなかった。

「終わっちゃった……?」

夏実はぽつりと呟く。

「そのようだな」

彼が肯定した。

「そんなぁ……」

自然と夏実の唇が突き出てしまう。

せっかく彼と花火を見に来たのに、うだうだ考えているうちに、お目当てのものが終わってしまった。

「そんな顔をするな」

そっと、頭に彼の手のひらが触れた。

「確かに、あれが最も輝いていられるのは一瞬……瞬きの間に見逃してしまうほど、短い時間だ。しかし、だからこそ価値がある」

それに……と、彼の骨ばった指が、夏実の結い上げた髪の毛先を梳く。

「その貴い瞬間を、夏実と共に過ごせたことは、拙僧にとってこの上なく嬉しいことだが?」

「お、お坊さ……!?」

直接的な物言いに、夏実の頬に一気に熱が集まった。

「夏実は違うのか?」

いたずらっぽく微笑まれて。

思わず首を横に勢いよく振った。

あとから夏実は自分の動作に気付いて、更に顔を赤くする。

彼の忍び笑いが上から聞こえて、わたあめで自分を隠す夏実だった。

「――それにな」

と、彼は懐に手を入れて、花火大会の案内らしきものを出した。

「これによれば、今宵の花火は、時間をずらして何度か上がるらしい」

「えっ、そうなんですか?」

次はきっと、一緒に楽しめる。

ううん、絶対、一緒に楽しみたい。

「次までには時間があるから……。そうだな、何か食べようか」

「はいっ!」

夏実は彼の隣に並ぶ。

二人はとても自然に、人の波に乗った。



《後書き→》
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ