BOOK(企画2)

□儚火
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パチパチパチ――……。

焚き火に似た音を放って、小さな火ははぜる。

己の手にあるそれを、イタクは黙したまま、見つめていた。

「イタクは、線香花火が嫌い?」

不意に、横から声がかかる。

そちらに顔を向ければ、同じものを手にした冷麗と目があった。

「……なんでだ?」

「だって、ずっと仏頂面なんだもの」

そんな顔をしていたかと、イタクは己の眉間の皺を伸ばす。

冷麗がクスクスと笑った。

線香花火。

イタクにとってそれは、女子どもがやるものと言う認識だ。

どちらかと言えば、離れた場所で手持ち花火を振り回す淡島らに付き合う方が合ってる気がするし、先程までそうだった。

では何故、線香花火に勤しんでいるかと言うと。

持っていた花火の火が消えて、未使用のものに手を伸ばした時、線香花火を携えた冷麗に、にっこりと微笑まれたからだ。

「……別に、嫌いじゃねぇ」

「そう。なら良かった」

冷麗は手元に視線を落とす。

イタクのは先に終わったが、冷麗のはまだ点いていた。

「綺麗ね……」

唄うような囁きが、闇に流れた。

乏しい明かりに照らされているからだろうか。

その横顔は美しく、けれども哀しげにも見えて。

「……っ!」

――無意識だった。

腕が、イタクの意思の外で勝手に動いて、冷麗の華奢な手首を掴んでいた。

「えっ……?」

冷麗が驚きの表情で顔を上げる。

それと同じくして、彼女の線香花火は儚く地に落ちた。

闇が二人を包み、延びる。

互いの顔色は読めず、距離感すら曖昧になる。

けれども、それ故に。

触れた肌に意識が集中して、彼女の僅かな動きでも、敏感になってしまう。

「イタク……?」

冷麗が見じろいだのが伝わった。

「冷麗、こっちに……」

零れ出た言葉に、イタクははっと口を噤んだ。

何を言っているんだ、自分は――。

彼女の気配が近付いて、身を固くする。

それを悟られぬように、イタクは静かに、静かに……息を吐いた。



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