BOOK(企画2)

□SHOT!!
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「なぁ、ドラミ!これって射撃だろ?」

キッドがはしゃいだ様子で振り返る。

手前に、おもちゃの拳銃が備え付けられたカウンター。

数メートル先には、四段の棚に、的であるのだろうお菓子や雑貨が並んでいる。

当たったものが、そのまま景品になるようだ。

「そうみたいね」

ふてくされて言ってみても、キッドは瞳を輝かせるばかり。

見つけちまったからにはやらないとな、なんて言って、主人にお金を渡している。

「……ばか」

――こっちの気も知らないで。

ピストルを構えるキッドの斜め後ろから、ドラミも的の雑貨たちを順に見ていく。

ふと、視線が吸い寄せられた。

ふわふわもこもこで柔らかそうな、猫のぬいぐるみ。

――可愛い……。

もし、キッドがあれを取ってくれたら。

「お前、好きだろ?」なんて言って、笑いかけてくれたら。

けれど、ぬいぐるみの置かれている位置を見て、ドラミは思い直した。

棚は上段になるほど奥に遠ざかり、景品も小さくなっている。

件のぬいぐるみは、最上段にあった。

加えて、左右の雑貨が微妙に被さって、更に当てにくくなっている。

――いくらキッドでも……。

「よしっ!」

「え?」

ふと我に返れば、ぬいぐるみが消えていた。

「あ、あれ?」

ドラミが瞬きする間に、主人がぬいぐるみをキッドに手渡している。

「ほら、やるよ」

キッドの手を介して、ぬいぐるみはドラミの腕に収まった。

彼の笑顔が得意気にきらきら輝いている。

「キッド……もしかして、私が欲しがっているのが分かってて……?」

鼓動がとくん、と鳴る。

「ん?そーだったのか?オレは一番難しそうなヤツを狙っただけだけどな」

こてん、と首を傾げるキッド。

がくん、とドラミの首が落ちた。

そう、キッドはこんな奴だった……。

「ま、でも。ドラミの喜ぶ顔が見れたんなら、ちょうどよかったな」

にぃ、とキッドは無邪気に歯を見せる。

今度こそ、胸がきゅんと刺激された。

「……もう」

ドラミはぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

ふわふわの生地が、熱い頬を受け止めてくれる。

「さ、行くぞ。オレ腹へった」

と、ドラミの手がキッドのそれに握られた。

「転ぶなよ。せっかくの浴衣が崩れたらもったいないもんな」

「えっ……」

――つまり、手を引いてくれるってこと?

それなら、もう少しだけ、ゆっくり歩いて――。

そう思いを込めて、繋がった指先に軽く力を込めれば、歩調が緩やかになった。

すれ違う人をよけて、ドラミは一歩、キッドに近づく。

その距離を保とうとするかのように、握る力が強くなった。



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