西浦流星群

□見詰めないで
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きっと動けなくなってしまうから。

心も、身体も。

見詰めないで


「阿部君…あの…」

手に持ったシャープペンシルは汗で濡れている。どきどきと煩く脈打つ心臓を密かに押さえながら手が震えないように細心の注意を払って、目の前の数式をおった。
阿部君の手にかかると魔法のように簡単に答えにたどり着くそれは、私には容易に心を開いてはくれない。
頭がぐるぐるしてくる。…うーん。分からない…

「篠岡。生きてるかー?」

「うーん…なんとか…」

どこが分からないんだ?そう言って阿部君は身を乗り出して私のノートを覗き込んだ。耳元で彼の低い声が甘く、優しく響く。
うわぁ。
顔中に熱が一気に広がる。私の顔は今、絶対に赤い。阿部君に見られちゃったらどうしよう。でも、幸いな事に阿部君は私のノートの数式に夢中で気が付いていないみたいだ。
しかも、目に痛いほどに西陽が射し込む教室だ。目を凝らさなければ、バレることは無いだろう。
そう思い込むと少しだけ心臓が落ち着いた。

「篠岡ー。聞いてるー?」

阿部君の低い声。私は急激に現実に引き戻される。
退きかけていた熱が一気に両頬に集まる。

「うぁっ!はいっ!!聞いてませんっ!!」

阿部君の両目がきょとんとして私を見詰めた。

目が、あった。

沈黙が教室を包み込む。

あぁ。

私。





――漆黒の闇に呑み込まれそう――








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