幸福論


□winter
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「ねえ、鈴蘭。今日仁王君誕生日なんだって」

「は?」

茜の突然の一言に、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。

今日は日曜日で、バイトも無かったので茜の家でDVDを見て過ごしていた。

まったりとしている時に、茜がポテトチップスを銜えながらそう言ったのだ。

「だーかーらー!仁王君誕生日だって!」

「…へえ」

「反応薄いー!」

「そりゃそうでしょう。なんで仁王が出てくるのよ」

「いやー最近いい感じじゃん?」

「いい感じ、ってね…」

最近仁王はよく家に来る。

その時は他愛もない会話をして、一緒にご飯を食べて、仁王の淹れたコーヒーを飲むのがお決まりだ。

学校でも会えば話したりもする。

それのどこが、いい感じなんだろう。

そもそも、いい感じって何だ。

「今頃みんな仁王君のプレゼント選びに没頭してるだろうねえ」

「明日は戦争ねえ」

「…ちょっと!なんでそんなに他人事なのよ!」

「いや、本当に他人事だし」

「もー!そんな事してると仁王君とられちゃうよ」

「どうぞご自由に」

知ったこっちゃない。

仁王が誰かと付き合っても、私には何も関係ないのだ。

「鈴蘭もあげなよー」

「えー?」

「絶対仁王君、喜ぶと思うけどなー」

「そんな訳ないじゃない」

「えーつまんないのー」

「茜は私達をくっつけてダブルデートしたいだけでしょう」

「…まあそれは否定しないけど!でも付き合ってくれたら嬉しいな、って思うよ」

「それはない」

うん、絶対に。

私たちはただ、お互いの傷を舐め合ってるだけなんだよ。


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