幸福論


□sping2
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春休み特別版・ロスでの一日。

(アメリカでの描写ですが、全員の英語に訳を付けるのは読みづらいので、日本語表記です)

「着いたー」

思わずテンションが上がってしまうほどの快晴。

久々に感じるアメリカの空気は気持ち良い。

「リリィ!」

「ビル!お迎えありがとう」

「全然構わないよ。さあ、帰ろう!パパもママも待ってる」

空港まで迎えに来てくれたビルの車に乗り込んで、ビルの家までお喋りしながらのドライブ。

話題はもっぱらテニスの話。

最近プロデビューした後輩がすごく上手くなってたとか、対戦相手の技がすごかったとか。

世界で戦ってるビルから聞く話はとても興味深く、聞いているだけで楽しかった。

そしてそれから数十分もすれば、見知った風景が広がった。

車をガレージに止めたら、玄関前で一呼吸。

「あれ、緊張してる?」

「うん。久々だからかな」

此処に来るのも1年ぶりだ。

全く変わってない。

だけど変わってしまった私を見て、どう思うだろうか。

1人悶々と悩んでいれば、中から爆発音のような音が響き、ビルと顔を見合わせて中に入る。

「また爆発してしまった!」

「やっぱりこのオーブンがダメなのよ」

キッチンには煤まみれのスティーブンさんとヘレンさん。

話から推測するとオーブンで調理していた何かが爆発したようだが、“また”と言っている上、笑い合っているところを見ると初めてではないのだろう。

その証拠にビルが慣れた様子でお掃除セットらしきものを準備している。

ああ、懐かしいな。

これがアメリカでのちょっと変わった日常だった。

「ヘレンさんもスティーブンさんも変わってないねえ」

「おお!リリィ!」

「いつ帰ってきたのッ!もう、早く声掛けなさいよぉ」

煤まみれにも関わらず飛びついてきた2人のせいで私の服や肌も煤まみれたけれど、今はそんなことよりも会えたことが嬉しい。

堪らず抱き返すと煤が舞う。

「あー!もう!皆シャワーして来て!これ以上動き回ったら掃除が大変だ!」

ビルも巻き込んでしまおう!

「あー!!!リリィのバカ!」
















それからシャワーを浴びて、早めのディナーとなった。

「日本の学校はどうだい?」

「うん、楽しいよ」

「リリィは生徒会長なんだって!」

「あら、すごいじゃない」

「ううん、先生に無理やりね」

「それでも凄いわ!さすが私の娘ね」

「何を言ってる!リリィは俺の娘だ」

「どっちも同じでしょ」

スティーブンさんとヘレンさんのやりとりに、冷静につっこむビル。

ここでは見慣れた光景だ。

カタコトの日本語だとボケているように見えるが、実はしっかり者なのである。

「そういえば奏慈って覚えてる?」

「ああ、ユリの友達ね!」

「え、知ってたの?」

「あら。だって一緒に会場入りしてたんじゃなかったかしら?ねえ、あなた」

「その通りだ。確か教師だったな」

……知らなかったの私だけか。

「随分と懐かしい話をするね」

「ああ、うん、…ちょっとね」

学校で再会してビックリした、なんて言ったら知らなかったことを笑われるだろうしなあ。

喉元まで出かかった文句を冷たいスープと共に飲み込んだ。

「…美味しい」

「でしょう?昔から好きだったものね」

文句の代わりに出たのは昔から変わらない、私の知る唯一の母の味。

実家の母の味は知らないけれど、アメリカの母が作るこの冷製スープは昔から大好きだった。

「リリィが来ると思って張り切っちゃったわ!まだお代わりあるからね」

「ボクもお代わり」

「俺ももらおう」

「もう!リリィに言ったのに!」

この家にはテニスに夢中だった頃の私の影がありすぎる。

年々増えていくビルのトロフィーに紛れて見える、私のトロフィー。

ラケットとトロフィーを持って満面の笑みで家族と写る写真達。

“今”の私じゃない。

どれも“過去”の私。

それでもこの家族は、私を温かく迎えてくれる。

「リリィ?スープは?お腹いっぱいかしら?」

「あ、ううん。お代わり!」

考え込んでいたのを誤魔化すようにヘレンさんにカップを差し出すと、スープをなみなみと注がれた。

……飲みきれないかも。

「そうだ、リリィに聞きたい事があったんだ!」

「なに?」

ビルがポケットからごそごそと取り出したのは一枚の写真。

差し出されたそれを確認すると、

「こんなに格好いいボーイフレンドも出来て…お父さんは寂しいぞ」

「………何故仁王とのツーショット」

「アカネが送ってくれたんだー!!リリィとそのカレシ候補!」

「…茜ったら。それは違うからね?」

「そうよ。リリィはビルと結婚するのよ」

「ちょっとママ!それいつの話?」

「あんた小さい時言ってたでしょう?大きくなったらリリィと結婚するって」

「え?そんな事言ってた?」

「私も覚えてない」

子供の頃の発言は怖い、としみじみ思った。



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