幸福論


□winter2
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文化祭が大成功し、生徒会の仕事も一段落した所でバイトに復帰することになった。

…にも関わらず、私はまた悩んでいた。

それはまあ、勿論仁王のことで。

仁王の誕生日まで刻一刻と迫っているのだ。

プレゼント、どうしよう。

何もあげない、という選択肢はないけれど、何をあげたら良い?

私の誕生日にはネックレスを貰った。 

だからお返しもアクセサリーを贈るのがいいのだろうか。

仁王の好みはなんとなくは分かっているけど、付き合ってもない私が贈ってもいいものか。

「鈴蘭、あんた大丈夫?」

「…香代さん。…大丈夫です」

香代さんは隼人さんに、どんなものをプレゼントしているんだろう。

いや、それを聞いたところで、香代さんは隼人さんの彼女という明確な関係がある。

一方私達は同級生、隣人、よくて友達、といった所なのかもしれない。

仁王はファンから散々貰うだろうし、ファン達と同じモノを贈るのは避けたい所だ。

それに去年の誕生日だって、香水の事で色々と噂になって大変だった。  

…どうしたもんかな。

「鈴蘭?本当に大丈夫?」

「…脳みそが破裂しそうです」

「っ!なに、そんな深刻なの?」

「いえ、多分経験値が足りないんです」

こんなにも苦しくて、切なくて、相手を想うと胸が痛いなんて経験、今までになかった。

恋というものすら、夢のような話だと思っていたくらいで。

「…鈴蘭?」

「はい?」

「なんかあったら言うのよ?」

「はい、ありがとうございます」

香代さんに言わないのは、茶化されたくないからかもしれない。

仁王と香代さん、それに隼人さんもマスターも仲がいい。

この人たちの事だから、絶対にくっつけようとするに違いない。

仁王にとって私はただの友達な訳だから、そんな事はして欲しくないのだ。

「おーい、勘定」 

「はい!ただいま」 

ただの友達、か。

…自分で言って、ちょっと寂しくなっちゃった。















「鈴蘭ちゃん、お迎えだよ」

バイトの上がり時間に、仁王がやって来た。

マスターは仁王の事を未だに私のボーイフレンドだと思っているらしく、見せつけてくれるね、なんて。

……………。

照れるな、鈴蘭。

仁王は、友達なんだから。

「マスター、豆買って帰りたいんじゃが」

「構わないよ。ああ、上等品がある。それを持って行きなさい」

「いつもすまんの」

「いや、なに構わないさ。是非君にと思って取っておいたんだ」

なによ、楽しそうにしちゃって…。

こっちの気も知らないで。

「鈴蘭、悩みって仁王君の事でしょ?」

「っ!!香代さん、驚かせないで下さい」

マスターと仁王が店のキッチンの方へ移動したのを見計らってか、香代さんが声を掛けてきた。

…バレちゃった。

「で、告白でもされたの?」

「まさか。仁王は私の事なんて友達くらいにしか思ってないですよ」

「…あんたそれ、本気で言ってる?」

「当たり前じゃないですか」

「ただの友達のバイト先にこんなに入り浸ると思う?」

「そうですね、仁王はコーヒーが好きですから。コーヒー目当てでしょう」

「コーヒー飲まない日でも、買わない日でも迎えに来てるのに?」

「仁王は優しいですから」

「…あっそう」

何ですか、その軽蔑するような、ほとほと呆れた……っていう顔は。

私だって自分で言って少しは寂しく感じているのだから、そんな目で見ないで欲しい。

「…なんですかイキナリ」

「別にー。告白じゃないとしたら、何で悩んでるの?」

「…誕生日プレゼントですよ」

「へえ!もうすぐ仁王君誕生日か」

「はい」

「何を贈ればいいか悩んでる訳ね」

香代さんは少し考えた後、閃いた様に言った。

「まあ、鈴蘭の贈ったものなら何でも喜ぶと思うけど…、自信がないなら本人に直接聞いてみれば?」

「…本人にですか?」 

「そうよ。それか一緒に買いに行くのもいいわね」

それはハードルが高すぎる。

2人で出掛けた事は何度かあるが、好きと自覚してからは一度もない。 

家に2人きり、というのはよくあるけれど、出掛けるとなれば話は別。

だってそれって……、デートでしょう?

「鈴蘭、まだ着替えてないんか?帰るぜよ」

「…あ、うん」

悩んでいると、いつの間にか仁王がキッチンから出てきていた。

そして香代さんも既にロッカーに消えていた。

…どうしようかな、プレゼント。


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