幸福論
□生徒会交流会
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「会長、なんか招待状来てるぜ」
「招待状?何のだろう」
私が生徒会長として働き始めてから数週間。
選挙の時から固い絆で結ばれた生徒会一同が仕事を進めていると、ある招待状が届いた。
差出人は氷帝学園生徒会。
…………景吾だ。
何を考えているんだ、と少し呆れながら中を確認すると、一枚の便箋が。
「立海大付属高校生徒会長様、貴方を生徒会特別交流会にご招待致します……だってー!」
「生徒会特別交流会?なんですか、それ」
丁寧に読み上げた宮部さんに、春野君が反応する。
確かに、そんな交流会は聞いた事がない。
「今週の日曜日、場所は氷帝学園生徒会長、跡部の別荘だってよ。さっすが、ボンボンは考える事が違うよな」
「でも一体、何の為に集まるんでしょう?」
「あ、ここに書いてある。関東の学校同士の結束を固め、より良い学校作りをしていく為の交流会だって」
関東の学校同士、仲が悪いよりは良い方がいいに決まってる。
たとえ生徒会長だけの交流会だったとしても、その任期が約1年だったとしても、だ。
しかしこの交流会は初めての試みらしい。
企画者が景吾なら、その目的は……私だ。
私の生徒会長としての仕事ぶりでも見たいのだろう、あの馬鹿兄貴は。
「…行かなきゃ駄目だよね?」
出来れば行きたくはない。
その場で私の正体をバラす気はないにしても、ヤツは絶対に話しかけてくる。
立海生徒会長綾里鈴蘭としても、現在行方をくらませている跡部鈴蘭としても、近づいて得策になる相手ではない。
「別に気負いする必要はねえんじゃねえの?」
「そうよ、美味しい物食べれると思って気軽に行ってきなよ」
「…そうは言ってもね」
皆は知らないのだ、私が跡部の人間だということを。
なので頑なに断る事すら出来ない。
「しかもさ、氷帝の跡部って言ったらメチャクチャ格好良いんでしょ?羨ましいなー私もお近付きになりたいわあ」
「お前にゃあ一生無理だろ」
「村澤、あんたちょっとモテるからって調子乗んな!」
言い合いになり始めた宮部さんと村澤君に呆れていると、制服のポケットが振動する。
携帯を開いて確認すれば、景吾からの着信。
タイミングが良すぎる、なんて思いながらも、少し離れた場所で電話を取った。
「もしもし」
――俺だ。招待状は届いたか
「うん、今ね。…それで、一体何のつもり?」
――ただお前の働き振りを見ておきたかっただけだ
「…それだけ?」
それだけなら何故、会長の私だけなのだ。
普通に考えたら生徒会役員全員で参加するべきだろう。
「…行かなきゃ駄目なの?」
――アーン?当たり前だろう
「でも…――「会長ー!先生が呼んでるぞー」
――日曜の朝迎えを寄越す。じゃあな
景吾はそれだけ言うと通話を終了させてしまった。
私も仕方なく、呼ばれた方へ向かった。
「生徒会交流会だあ?」
「はい。行きたくないので、是非反対して下さい」
私を呼び出したのは、顧問である平林先生だった。
先生は私の事情を知っているので、私が行きたがらない理由も分かる筈だ。
「行ってくりゃいいじゃねえか」
「…反対して下さい」
「バーカ。他校の会長と宜しくすんのもてめえの仕事だろうが。反対する理由が見つからねえ」
「ですが得策とは思えません。私は今行方不明になっている訳ですし、跡部の名を隠しているのに…」
「坊ちゃんはお前を立海生徒会長として呼んでんだ。ヘマはしねえさ」
「それは、…分かってますけど」
幾ら景吾でも、私に不利になるような事はしない。
そんなのは分かっている。
だけど行きたくないと思うのは我儘なのだろうか。
「日曜だろ?行って来い」
顧問に言われてしまえば、行くしかない。
気が重すぎる。