幸福論


□winter
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その帰り道、少し寄り道して仁王の誕生日プレゼントを選びに来ていた。

茜に言われたせいか、何も用意しないのも気が引けた。

しかしショッピングモールのいろんな店に入って物色してみたものの、中々決まらなかった。

仁王が喜びそうなものって、何よ。

テニス関係?

いや、テニスで使うものは拘りもあるだろうし、何のメーカーを使っているかも分からない。

あ、じゃあコーヒー関係?

って、アイツ器具殆ど持ってるし。

中々決まらない事に不貞腐れていると、茜からメールが届いた。

――香水とかアクセサリーは絶対駄目!あ、勿論スポーツタオルも無難すぎるからね!

……お見通しかい。

「スポーツタオルは名案だなあ」

たくさんあっても困らないし腐るものでもないし、これでいいか。

香水やらアクセサリーなんて彼女でもないのに普通はあげないだろう。

そんなメールと数分睨めっこしていたが、何だか馬鹿らしくなって、このまま帰ってしまおうかと思った矢先、見慣れた銀髪が目に入った。

うわ、今会いたくなかった。

「偶然じゃの」

この男が言うと、そう聞こえないから怖い。

「何で此処に?」

「姉貴の買い物に付き合わされちょる」

「……可哀想に」

仁王の両手には、数え切れないほどのショップの袋がぶら下がっており、何時間も連れまわされたことが伺えた。

誕生日なのに、可哀想…。

「ハル〜?イキナリ居なくならないで………あら、彼女?」

仁王と話していると、美人さんがまた新たな袋を抱えてやって来た。

話から察するに、仁王のお姉さんだろう。

「いや、こいつが鈴蘭じゃよ」

「あ、そうなの〜?あたし雅妃(ミヤビ)!ハルがお世話になってます」

「あ、いえ。こちらこそ…?」

「何で疑問系なんじゃ」

「なんとなく…?」

何故お姉さんが私を知っている?

会った覚えはないけれど、お世話になっているのはお互い様なので、一応頭を下げておく。

「実はね、最近ハルの部屋行ったら女の影があったもんだから、聞き出したのよ。隣に住んでて夕飯一緒に食べてる子が居るって」

「…そうだったんですか」

「やーね、敬語じゃなくていいわよ。可愛い妹が出来た気分なんだから!」

「煩くてすまんの。コイツ、女姉妹に憧れとってのう」

「ちょっと、コイツって何よ。アンタはオネエ様って呼べって言ってんでしょ」

こうして虐げられる仁王は珍しい。

しかし家族だと知らなければ、美男美女のカップルに見えなくもない。

仁王が年上の彼女とデートしてた、なんて噂もあるがそれは恐らく雅妃さんの事なのだろう。

「鈴蘭ちゃん、今1人?」

「はい」

「良かったら夕飯一緒に食べない?」

「え、あ、でも……」

「ハルも鈴蘭ちゃん居た方がいいでしょ?じゃ、早速行こー!」

「…え」

強制連行だ。

しかし抗えなかった。

何だか雅妃さんは母に似ているのだ。

破天荒と言うか、思い付きで大胆に行動する所とか。

「すまんの」

「…大丈夫」

ああいう人が家族に居ると大変だよね、と心の中で呟いて、ご機嫌で私達より先を歩く雅妃さんを追い掛けた。

















連れて来られたのは焼肉屋だった。

しかもいかにも高級そうなお店。

「あれ、焼肉嫌い?」

「ううん、好き…ですけど」

「良かったー!ハルもアキも此処の店が大好きなのよ」

「へえ……アキ…?」

「ああ、うちの一番下の弟。ハルと違って可愛いの」

「後でこっち合流するって言っとったぜよ」

「家族水入らずなのにお邪魔じゃないですか?」

「なーに言ってんの!水臭いわね」

隣人のお姉さんに、こんな風によくしてもらったら誰でも気が引けるだろう。

家族水入らずを邪魔するのもどうかと思う。

お姉さんは彼氏と同棲中、弟さんは寮に入っているらしいので、兄弟は中々会えないと言うのに。

「いらっしゃいませー!」

そんな気持ちを抱えたまま店に入ると、愛想のいい店員さんに奥の座敷に通されて、仁王の隣に座る。

すると向かいに座った雅妃さんがニヤニヤして言った。

「あんたたち、本当に付き合ってないワケ?」

「なんじゃ、突然」

「だってお似合いなんだもん。ハルも満更じゃないくせに」

「さあの。鈴蘭、荷物こっち置いちゃる」

「あ、ありがと」

「………お似合いなのになあ」

仁王、頼むからちゃんと否定してくれ。

出来ればこのニヤけたお姉さんの対処方法も教えて欲しい。

戸惑いながらも注文を済ませて料理が運ばれてくるのを待っていると、アキ君もやって来た。

「よ!ハル兄、おめでと!」

「アキ、遅いじゃない!」

「久し振りじゃの、アキ」

「おう!…と、ハル兄の彼女?」

「そうよー!鈴蘭ちゃん!ハルのお嫁さん」

「ちょ、雅妃さん!」

「アハハ、ごめんって!鈴蘭ちゃんはハルの隣人さんよ」

「隣人?あ、じゃああのマンションに住んでんだ。よろしくね、鈴蘭ちゃん」

「あ、はい」

アキくんは顔は仁王と似ているが、作りが似ているだけで表情や笑い方が全然違う。

素直でいい子なんだろうな、って思うくらい、感情が豊かでそれが顔に表れる子。

こういう可愛い弟さんが居るから、余計に仁王は自分をさらけ出せないのかもしれない。



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